原因不明の歯の痛み

歯の痛みの代表的な原因は「むし歯」と「歯周病(歯槽膿漏)」ですが、他院で歯に問題ないと指摘されたが痛みが止まらないと来院される方が増えてきています。

その中には詳しい検査やCTなどで通常の治療ではわかりにくい場所に問題があったり、歯にひびや割れが見つかったりするケースもあります。
しかしお口の中を拝見しレントゲン写真や歯周病の検査など通常の検査をしても異常が見つからないこともあります。これでは歯に問題がないと診断されるのもうなずけます。

しかしご本人は痛みを感じているのですから、何か理由があるはずです。通常の検査では検出できない何かがあるはずなのです。神経的精神的な理由もあり得ますが、その原因の一つが継続的に歯を接触させる悪い習慣です。

「えっ!そんなことで歯が痛むの?」と思われるかもしれませんが、起きるのです。 指で手を軽く押してから離すと押された部分の白くなった皮膚に赤みが戻るのが見えますね。これは指で押さえることによって皮膚の血行が一時悪くなって白くなり、指を離すことによって再び血行が戻ったのです。
これと同じように歯に力がかかれば歯を支える組織の血行が悪くなります。血行が悪い時間が長かったり頻繁に起これば組織の血流が滞って歯に症状が出ても不思議ではありません。ひどくなれば組織の破壊もあり得ます。歯周病の一つの原因にもなります。

歯同士の接触など一見大したことでないように思われるかも知れませんが、腕を強く縛って血流を止めると腕は腐ってきますから同じことが歯を支える組織で起こっていると考えればご理解いただけるのではないでしょうか。
これからこの歯同士を接触させる悪い習慣についてお話ししていきましょう。

ブラキシズム

歯の接触といえば皆さんは夜間にギリギリと音を立てる「歯ぎしり」を連想されると思います。ここで異常な歯の接触状態のお話しを少ししてみましょう。その一つがブラキシズムです。
ブラキシズムは睡眠時や起きている時を問わず、歯を接触させた状態で力強く動かしたり、歯同士をすり合せたり、噛み締めたりするもので、食事以外で歯を強く接触させる悪い習慣です。歯同士の当たり方から次の3つのパターンに分類され咬合神経症とも呼ばれています。

グライディング: 上下の歯を臼のように力強くすり合わせる運動です。ギシギシと音を立て歯に異常な強い力が働くので、歯がかけたり異常に摩耗したりして歯の崩壊を招きやすいものです。睡眠時に多く、一般に呼ばれる「歯ぎしり」はグラインディングを指すことが多いのです。 ストレスを与えると普段歯ぎしりしない人に歯ぎしりがでたとの文献もありますから、ストレスとも関連がありそうです。

クレンチング: 上下の歯を余り動かさない状態で強く噛み合わせる状態です。「食いしばり」とも呼ばれます。日中起きている時に無意識に行っていることが多く、自覚症状がほとんど無いために発見が遅れることがあります。

タッピング: 食事以外の時に上下の歯をカチカチと噛み合わせる動作のことです。




異常な歯の接触による障害

こうしたブラキシズムによって歯がかけたり、健康な歯ですら真っ二つに割れたりすることがあるほどです。そこまでいかなくとも歯がむし歯でもないのにしみたり痛かったりする症状や、むし歯発生の一因として、また歯を支える歯肉やあごの骨への障害(歯周病)、ひいては顎の関節の異常(顎関節症)などを引き起こすことがあります。

ブラキシズムや後で述べるTCHによって引き起こされたと考えられるものには、目で確認できないほど微細な歯のヒビ割れによる歯の神経の感染などがあり、歯を拝見してもレントゲンや検査を行っても原因不明としか言いようのない症例にも時々遭遇します。
顎関節症に関しては東京医科歯科大学の顎関節治療部の木野孔司准教授のサイトをご紹介させていただきますのでご覧ください。




TCHとは?

ブラキシズムの特徴は主に強い力が歯にかかることですが、近年問題となっているのが持続的・継続的な弱い力です。それは食事や重い物を持ち上げる時などを除いた本来上下の歯同士が接触していないはずの時間での長時間の歯同士の弱い力での接触です。以前からこの弊害は言われていましたが、この状態を東京医科歯科大学の顎関節治療部の木野孔司准教授はTCH(Tooth Contacting Habit)歯の持続的接触癖と呼んでいます。

こうした弱いが持続的な力は休む間のない負担と同義語です。持続的な力によって歯への障害だけでなく歯を支える組織の血行不良を招き歯肉や骨の健康を害し、また筋肉疲労が蓄積することでひいては顎の関節まで障害が及ぶこともあります。 実際にTCHを解消することで原因不明の歯のしみや痛み、歯周病の軽減、顎関節症の軽減などがみられています。
重い物をよいしょと持ち上げる(等張性筋収縮)のに力が必要なのはご存じでしょうが、いくら軽い赤ん坊とはいってもずーと抱き続ける(等尺性筋収縮)のは結構大変です。私を含め世の男性には特にかもしれませんが…。

以前からその悪習慣の弊害は指摘されてきましたが、近年増加の一途をたどっている実感があります。そうさせる根本原因はまだ十分解明されているとは言えませんが、ストレスの多い社会状況が関わっていると考えられます。実際に発症した時期を伺うと、仕事や家庭のストレスや疲労などの増加時期と不思議と重なることが多いので無関係ではないと考えています。

あなたは何もしていない時や仕事や家事の時に上下の歯が接触していませんか?
正常な人は接触しておらず上下の歯の間には安静空隙と呼ばれる1~2mmの空間があるのが普通です。この文章を読んでいる今、歯を接触させている方は実は正常ではないのです。しかしこの異常な接触状態を普通だと思っている人が結構いらっしゃいます。自分の異常に気づいていない、それが問題なのです。
ブラキシズムであれTCHであれ力の強さは違っても共通するのは歯やあご、関節に休む暇を与えていないことです。いつも負担をかけていれば壊れるのは当然で、どこが壊れたかによって症状が変わるだけなのです。




TCHへの対処法

対処法の最初の一歩でありかつ究極の対処法は自分が上下の歯を接触させていることに気づくことです。
接触させていることが原因である以上これをやめるしか症状を消す手がないからです。しかし今の自分が異常な状態だと理解したとしても、歯の接触を無意識で行っていますからなかなかやめることができません。しばらくすれば忘れてしまってまた歯を接触させてしまいます。

これに対してはしょっちゅう自分に「歯が接触していないか?」と問いかけ、接触していれば1mmでいいから歯同士を離す、この気づき回数を増やしていくことです。
あんぐりと口を開ける必要はありません。先ほど述べた安静空隙と呼ばれる空間を空ければいいだけですので他人からわかるほどの変化ではありません。こうしてしょっちゅう問いかけて歯を離すことを習慣化しその状態が無意識で継続できるように自分に刷り込んでいきます。多少時間がかかりますが、気づきの回数が多ければ悪い習慣をやめて新しい良い習慣の獲得は可能です。




具体的な実施方法

実際の方法としては職場や家庭の自分の周りにポストイットをあちらこちら目につく場所に貼ります。書くのは「歯を離す」でもいいでしょうし自分だけが分かるマークや文字でも結構です。
それを見たら自分に「歯が離れてますか?」と問いかけるのです。一度問いかけをしても仕事や家事に注意が向かってすぐに忘れまた無意識に接触してしまうので、ポストイットに目が留まることを気づきのきっかけにするのです。

できれば貼るのは目立つ同じ色が望ましいでしょう。なぜなら一週間も経てばそのポストイットさえも通常の風景になり気づきのサインにならなくなるためです。その風景に慣れてきたらポストイットの色を変えてください。新しい色が刺激になりまたサインの役目を続けてくれます。

こうして期間が経てばいつのまにか歯を接触していないことが通常になってきます。気づけばいつのまにか症状が消えていることに気づくでしょう。必要なのはポストイットだけですから是非試してみてください。「こんな簡単なことで?」と最初は疑いたくもなるでしょうが、たくさんの方々からお喜びの声を頂いています。




歯やインプラント、入れ歯をしっかりと治療し、快適に、そして長持ちさせるには、歯などに余計な噛みしめる力の負担を強いないことが非常に大切です。

長期間、持続的な噛みしめる力は、仮に歯と歯を軽く接触させているだけでも、歯に強力な力をかけたのと同じで、暴力です。この力が確実に水面下で「歯」や「骨」、「歯肉」、さらに「顎の関節」まで、身体を壊していきます。
この噛み締めの原因の多くがストレスと関わっており、しみる原因や歯周病の原因にもなり、歯などを長持ちさせるためにはストレスの問題を避けて通れない現実があるのです。

ストレスのことをもっと知っていただき、これからの人生を支えてくれる歯のために院長高岡が書いた小冊子です。以前は印刷をして来院された患者さまに手渡ししておりましたが、時代に合わせてホームページでお読みいただけるようにしました。10ページと読みやすい分量ですので、ご興味がおありの方はどうぞ。

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