正しい歯磨きの仕方

病気にならなければ歯を削ることも失うこともありません。歯という財産を守れるだけでなく、硬いものでも何でも噛める豊かな食生活も捨てる必要がありません。治療に時間と費用をかける必要もありません。 虫歯や歯周病の予防と治療のために歯磨きは避けて通ることができないものです。 正しい歯磨きを知っていただく目的で院長高岡が書いた小冊子です。 以前は印刷をして来院された患者さまに手渡ししておりましたが、時代に合わせてホームページでお読みいただけるようにしました。全体で11ページと読みやすい分量ですので、ご興味がおありの方はどうぞ。

歯磨きのお話し

なぜ歯を磨くの? / 小冊子 P1/11

■なぜ歯を磨くの?
小さい頃、お母さんに「歯を磨きなさい」と言われたことがあると思います。
ではなぜ歯を磨くのでしょうか。
多分、食べカスが残れば虫歯になるから、また成人では歯周病の予防や治療のため、とお答えになるでしょう。これが学校の試験問題なら正解です。

しかし、料理のレシピにいくら詳しくとも、実際に料理ができないのでは家庭の主婦はつとまりませんし、目の前の仕事をこなさなければいくら知識があっても会社では評価されませんね。学校では知識を学ぶのが第一ですが、日常生活では問題の正誤でなく、その実践が問われています。

さらに、料理がおいしいかそうでないか、仕事がうまくいったかそうでないか、その内容で最終的に判断をされてしまいます。生きるということは結構大変ですね。これを「しんどい」と感じるか「やりがいがある」と感じるかは個人の感じ方ですが、同じことが、「歯を磨く」と「磨けた」の違いとなってあなたの健康を左右してしまいます。

歯がピッタリくっついてきれいに並んだ歯並びでも、意外に隙間だらけなのをご存知でしたか?歯の表面の細かな溝、歯と歯の間、歯と歯肉の間などに見落としがちな隙間があります。1cmもないような小さな歯のまたその一部などと細かな話で恐縮ですが、歯の病気を防ぐために私たちが立ち向かうのは、細菌という顕微鏡でしか見えないほど微細なものが相手ですから、見えないからと侮ってはいけないのです。

なぜ歯を磨くの? / 小冊子 P2/11

いや、見えれば気付くものを、見えないから逆に怖いのです。歯と歯肉の間をようじでなぞってみてください。ようじの先に白いものが付いてきたら、それが虫歯や歯周病を引き起こす諸悪の根源、プラーク(歯垢)です。

このプラークやプラークから派生したバイオフィルムと呼ばれるものたちは、歯の表面にねっとりとこびりついて非常に厄介な代物です。これらは水に溶けないために、うがいぐらいではびくともしません。ガムをかんだり、りんごを食べても変化がないことが確認されています。
ただ、幸いなのはいくらねっとりしていても接着力はなく、軽く歯ブラシが当るだけで取ることができることです。しかし、先ほど述べたように歯と歯の間などの非常に細かな隙間に入り込んだプラークなどは、歯ブラシを当てること自体が難しいのです。細やかな歯ブラシの動かし方が必要になってきます。

ここで一つ大切なことをお話しします。それは、「力強く」と「早く」です。前述したようにプラークなどは軽い力で十分に落とすことができるのに、がんばって「力強く」「早く」ゴシゴシと歯ブラシを動かしてしまいがちです。

 

なぜ歯を磨くの? / 小冊子 P3/11

これが逆効果になっていることをまず理解していただきたいのです。歯ブラシは、ほうきと同じようなもの。ゴミを集めるのに、ほうきを床に押し付けて力強くはくと、ほうきの先が開いてしまってゴミを集めることができなくなってしまいます。
さらに、ほうきの先が細かな隙間に入りません。これでは掃除をしたつもりでも、その辺をゴシゴシこねまわしているだけ。目に見えるゴミなら掃除ができていないことが簡単にわかるものが、お口の中では小さいゴミだから見えないのでやったつもりになってしまいます。

さらに、力強いことが、歯を磨耗させてしみる原因をつくったり、歯肉を傷つけて歯肉が痩せてくることもあります。そして「早く」歯ブラシを動かすことで、歯ブラシの毛先が細かな隙間の奥底に届く前に、歯ブラシが動いてしまい、次の歯に毛先が移動してしまいます。

これでは、肝心の隙間が掃除できません。早く動かす歯ブラシは、後戻りできない歯の異常な磨耗も引き起こしますから、車同様スピード注意!です。満足な掃除もできないうえに、これでは踏んだり蹴ったりですね。「力強く」「早く」は禁物ですから、くれぐれもご用心。交通標語の「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く」をもじって、「狭い口、そんなに急いでなんとする」でしょうか。

 

なぜ歯を磨くの? / 小冊子 P4/11

■歯磨き時間と方法
「口は健康の入り口」「歯は健康の尺度」「歯は生命なり」といわれていますから、大切な歯を守っていく上でどうしても欠かすことのできない歯磨きの取り組み方についてお話しさせていただきます。

一日3回歯磨きした場合の、歯磨き剤と歯ブラシの価格から計算すると、一日に歯の手入れにかけている費用は約8円だそうです。そして、厚生労働省の統計では全国平均で一日に1.8回しか歯磨きをしていません。生命保険や自動車にかける一日当りの費用から考えると、みなさんの健康を維持するためには、もう少し大切に扱っていただければ、と思います。

また歯磨きの時間を調べたある報告によりますと、歯磨きする時間は1分から3分と答える人が71%でした。また、その人達に「しっかり」と歯磨きをしてもらう場合と、「簡単」に歯磨きをしてもらう場合、の両方の歯磨き時間を正確に計測しました。その後、「あなたは何分間歯磨きをしたと思いますか?」と質問した結果が以下のとおりです。

しっかりと磨いた場合に本人が感じる時間は2分間、簡単に磨いた場合に感じる時間は1分40秒、この差がたった20秒しかありませんでした。さらに、しっかり磨こうが、簡単に磨こうが、実際に磨いていた時間は、どちらも本人が磨いたと感じた時間より40秒も短いのです。

つまり自分が思っている歯磨きの時間の約3分の2しか、実際には磨いていないということです。人は楽しいことに関しては時間が短く感じられるし、嫌なことや退屈なことには時間が長く感じる傾向にありますから、どうやら、歯磨きは後者にはいるようです。

 

 

なぜ歯を磨くの? / 小冊子 P5/11

では、どのぐらいの時間、歯磨きをするといいのでしょうか。
私がお勧めする方法は、まず奥歯と前歯に歯を2つに分けします。さらにそれらの歯のグループを頬(唇)側と舌側、噛む側の歯の表面に、磨く平面として3つにグループ分けします。これでお口全体の上下の歯が12のブロックに分割されました。このブロックごとに歯磨きをしていく方法です。

この方法なら、やり残しや偏った歯磨きになりません。このブロックを一つの単位として、そこを歯ブラシで20回往復して磨くというものです。この一つの単位の歯磨きにかかる時間はだいたい15秒から20秒位ですから、お口全体の歯磨きに必要な時間は3分から4分ということになります。

ここで注意していただきたいのは、一つのブロックを一度に磨くのではなく、歯ブラシを動かす距離を短くして数本ずつ磨くことです。また3分間以上歯磨きをすることが大事なのでなく、一つのブロックを20回磨くことが大事なのです。目的が歯を隅々まできれいにすることですから、結果的に3分以上の時間がかかるということをご理解頂きたいと思います。

しかし、朝、昼、晩と、このように磨くことは現代人にとって時間的に無理がありますね。寝ている間は唾液の分泌が減少して不利なお口の環境になるため、せめて就寝前には、時間をかけて隅々まで丁寧に歯磨きすることをお勧めします。この方法で、みなさんの歯は長持ちするはずです。ぜひ、試してみてください。

 

なぜ歯を磨くの? / 小冊子 P6/11

■歯ブラシの選択
今度は普段ご質問の多い「歯ブラシ」の選択についてお話しさせていただきます。最近でこそひどい歯ブラシを目にすることが少なくなりましたが、それでもまだ販売店では馬の歯でも磨くのかと思うほど、大きい(長い)歯ブラシが堂々と人間用として陳列してあります。一見大きいハブラシの方が一度に広い面積を磨けて効率がいいように思えるでしょうが、歯ブラシは口に入れてなんぼ?のものでなく、動かしてなんぼ?のものです。歯ブラシが大きいと、狭い口の中で隅々まで動かし、食べカスをかき出し、掃除することができないのです。今日の晩御飯の買い物に、近くの商店街の肉屋、魚屋、八百屋にトラックで行くようなもの。小回りがきかずに大変です。歯ブラシは大きいからいい、大は小を兼ねるとはいかないのです。歯ブラシの適正な大きさは、成人で2cm位、口の小さい女性や子供ではそれ以下のものをお選びになるといいでしょう。

また毛の材質は、衛生面から動物の毛よりナイロン製がお勧めで、歯ブラシの柄の形は一般的には真っ直ぐのものが力の入り具合や磨く場所の感触をつかみやすく、適しています。ブラシの毛の硬さは、口の中が特別な状態でない限り「ふつう」を選んでください。硬い毛は一歩間違えば、歯や歯肉を傷つけてしまい、非常に取り扱いが難しいのです。特別な人が、治療手段として一時期だけ特別に使うと思ってください。あなたがその特別な人でなければ、「ふつう」が最適です。世間一般ではいいものは値段が高く、安いものにはそれなりの理由があるのが一般的です。この理屈からすると、値段の高いハブラシの方がよく磨けそうですが、実は極端に安いものを除けば、こと歯ブラシに関してだけは値段は関係ありません。歯ブラシが口の大きさや、歯並びに合っているかどうかです。実際に使って、使いやすいと思えるもの、それがあなたのマイブラシです。高い歯ブラシを長く使うより、あなたに合ったものを、毎月取り替えるほうがよいでしょう。

 

なぜ歯を磨くの? / 小冊子 P7/11

よく毛先が花びらのように広がっている歯ブラシを後生大事に使っている人がいますが、それでは磨く効率が悪く、さらに歯肉を傷つけているかもしれませんので要注意です。歯ブラシ代より、あなたの時間や歯肉の方が大切なのではないでしょうか。

歯ブラシの背中(柄のほう)から見て、毛先が柄よりはみ出ていればその歯ブラシは代え時です。また一ヶ月もたたぬ間にこうなった人は、力強く歯ブラシをし過ぎだと思ってください。歯と歯肉を傷めてしまいますから、もっと力を抜きましょう。

力強く磨かないと、また硬いブラシでないと、やった気がしないという人は、歯と歯肉によく聞いてみてください。そう思っているのはあなただけで、たぶんありがた迷惑だというでしょうね。
歯も身のうちですから、大切に!

 

なぜ歯を磨くの? / 小冊子 P8/11

■電動歯ブラシと補助用具
今度は電動歯ブラシ、糸ようじ、歯間ブラシについてお話ししたいと思います。
最近、電動歯ブラシをお使いになっておられる方が増えてきています。購入の動機は、効率よく磨けそうだとか、なんとなくよさそうだ、新しいものだから使ってみたい、という意見が多いようです。中には歯ブラシを動かすのが面倒だという方もいらっしゃるようですが・・・。

また、その商品も数百円から数万円のものまで値段も種類も沢山あって、どれがいいのか迷うほどです。しかし以前、歯ブラシの選択についてお話ししたように、何がいいではなくて、何があなたに合っているかです。企業はセールストークで長所を宣伝しますが、そのことより大切なのは手動であれ電動であれ、歯ブラシは道具だということです。関西風に言うなら「道具は使ってなんぼ、使えてなんぼ」です。

どんなに優れた歯ブラシでも汚れに毛先が直接触れなければ汚れを取ることはできません。虫歯や歯周病を起こしやすい場所は、歯と歯の間や、歯の溝、歯と歯肉の境目などで、非常に狭い場所です。この狭い場所に適確に毛先が入り込み、そこから汚れをかき出してこなければいけない、すなわちそこに毛先を適確に当てる上に、毛先を動かすことが求められるのです。

元来口の中は狭いもので、その狭い中でさらに歯ブラシを動かすのですから、大きい歯ブラシはこれからも不適当だと分ります。口に歯ブラシを入れて動かしにくいものはあなたに合った歯ブラシではありません。

さらに電動歯ブラシは普通の歯ブラシより重いものです。5分10分と磨く場所を意識しながら動かし続ける間、その重さに疲れたり負担になるようなものは、実際の負担だけでなく歯ブラシを丁寧に仕上げる気持ちの上でもマイナスになり、あなたにとって適したものとはいえません。こうした点を考えて電動歯ブラシを選んでいただきたいと思います。

また電動歯ブラシは効率はよいが手加減が難しいということを覚えておいてください。歯肉を傷つけやすい場所やデリケートな場所を磨く時、普通の歯ブラシならゆっくりそっと動かすことができますが、電動は機械任せで乱暴になることがあります。
大まかには効率のよい電動歯ブラシを使い、細かい場所やそういう場所は普通の歯ブラシで仕上げた方が無難です。道具に使われるのでなく、使い・使いこなしたいものです。

 

なぜ歯を磨くの? / 小冊子 P9/11

次に登場するのが糸ようじやデンタルフロス、それに歯間ブラシです。
これらは虫歯や歯周病の原因となる歯と歯の間を掃除するのに重宝なものです。歯ブラシだけでは、どんなにがんばっても歯と歯の間の汚れを60%しか取り除けないという報告もあります。毛先がピッタリとくっついた歯の表面に届かないのです。これを解消するのが糸ようじなどです。

では、歯間ブラシと何が違うのでしょうか。歯間ブラシは歯と歯がピッタリくっついた歯の表面を掃除することはできません。歯と歯の間にある歯肉が痩せてきた場合にその間隙に歯間ブラシを頬側と舌側から差し込んで掃除するものです。同時に痩せた歯肉への適度なマッサージ効果も期待できる優れものです。

しかし歯間ブラシは歯肉の痩せた人だけのものです。健康な人が無理して使うと、歯肉がその刺激で痩せてしまいますので注意が必要です。糸ようじも歯間ブラシも適切な使い方があります。よく切れる包丁と同じように使い方を間違えばケガをしますから、歯科医院で使い方と注意事項をよく聞いてからお使いください。
健康で快適な歯を維持するためにも、上手に付き合ってください。

 

なぜ歯を磨くの? / 小冊子 P10/11

■歯磨剤とPMTC
歯を磨く時、清掃効果をあげるために歯ブラシにつけるものを歯磨剤といいます。
江戸時代ではその歯磨剤が砂状だったためそれを「磨き砂」と呼んだそうです。さらに時代が変わってそれが粉状になりました。現在はチューブに入ったペースト状のものがほとんどですが、今でも歯磨き粉とも呼びますね。

さてこの歯磨剤、コマーシャルでも各社競うように薬効をうたった新製品が次から次へと発売され、どれがいいのかよく質問を受けます。ですが、歯磨きの基本は歯にちゃんと歯ブラシの毛先が当ることです。薬効だけで問題が解決するなら世話がないのですが、現実はそうはいきませんので歯磨剤の薬効は補助として考えてください。楽をしていいことはないのです。

次に歯磨剤に添加されている成分をみてみましょう。
フッ素が配合してあるものは虫歯の抑制効果が期待できますが、一部にはあえて添加することに反対する考え方もあります。また、磨いた後の爽快感を演出するために、大半の歯磨剤にはミントなど香料が添加されています。しかしこれには、磨けていないのにスッキリとして磨いた気分になる問題があるので注意して下さい。

また、多くの歯磨剤には茶渋などの色素落ち効果を狙って研摩剤、汚れ落ち効果向上のために界面活性剤などが添加されています。研摩剤が多量に入っている商品には歯の表面を削り、歯をすり減らす心配もあります。歯磨剤を多量に使う人や、電動歯ブラシは歯ブラシの動く回数の多いために要注意です。

 

なぜ歯を磨くの? / 小冊子 P11/11

界面活性剤は日常の私達の周りで色々と使われていますが、毎日口の中で使うものだから避けたいとお考えの方は、石鹸歯磨きペーストをお勧めします。私も長年使っていますが、歯磨きをした直後でも食べ物の味が全く変わりませんから、それだけ無用な添加物が入っていないということです。昔は入手が困難でしたが、最近は大きなお店では扱っています。面倒な方は当院でお求めください。

次に歯磨剤の量についてお話ししましょう。テレビコマーシャルでは歯ブラシの毛先一面にたっぷりとペーストをつけていますが、実際は5mm位チューブから出せば十分です。効果は変わらないのに、量が多いと先に述べたような弊害が多くなります。お皿一枚洗うのに洗剤一本使っても効果は変わらず、すすぐのに苦労しますし、環境汚染も深刻ですよね。多ければいいという訳ではありませんのでくれぐれも企業に貢献しすぎないでください。

こうした歯の清掃、毎日のこととなるといつも100点満点といかないこともありますし、歯と歯の間など細かで狭い場所は手入れが難しいことも事実です。こうしたことから、特殊な専用道具を使ったプロの手による徹底的なクリ-ニングを受けて、虫歯や歯周病の予防、さらに審美の観点から、歯の表面の茶渋やタバコのヤニなどの色素まできれいさっぱり取り除くPMTCという処置が欧米から広まってきました。

病気にかかって何かするのではなく、病気にかからないことに手間と時間を割き、健康的で快適な生活を維持しようという考え方です。実際にお受けになられた方の感想では、歯が綺麗になって、表面がつるつるでさっぱりしたと好評です。健康は生活の基礎、白くてきれい歯は『美』の入り口です。未体験の方は一度お受けになられてみることをお勧めします。

ここまで口の中だけにとどまらずいろいろな方面からお話を進めてきました。お疲れさまでした。元気であることが何よりもの財産であり、そして快適で豊かな生活を送るため、健康で美しい歯はこれからの人生にとって大切なキーワードになることでしょう。ソクラテスのいう「無知の知」から出発して、知識レベルから行動レベルに移され、幸せな人生を手にして下さい。
皆様のご健康とご長寿、そして快適を祈っております。