歯周病のお話し

歯周病にならなければ歯を失うこともありません。歯という財産を守れるだけでなく、硬いものでも何でも噛める豊かな食生活も捨てる必要がありません。治療に時間と費用をかける必要もありません。

歯周病の予防と治療のために院長高岡が書いた小冊子です。以前は印刷をして来院された患者さまに手渡ししておりましたが、時代に合わせてホームページでお読みいただけるようにしました。 全体で17ページと読みやすい分量ですので、ご興味がおありの方はどうぞ。

歯周病のお話し

噛むことと歯周病 / 歯周病のお話し P 1 / 17

日本人の平均寿命は、2004年簡易生命表によると女性85.6歳、男性78.6歳、男女平均82歳、日本は世界一の長寿国です。しかし80歳で20本以上の自分の歯を持っている人はわずか15.3%、一人平均では8.2本の歯しか残っていません。

実態調査からみると、50歳から急に歯を失っていく姿がわかります。中高年の人の80%が歯周病にかかっており、さらに40歳以上人の歯を失う原因の約80%が歯周病であることを考えると、50歳以前に歯周病と正面から向き合うことが大切です。

人間は「慣性で生きている」ともいわれています。人生と身体の曲がり角ともいえるこの時期ですが、歯のことなど気にとめず無理や無茶がまかり通った50歳までの延長で生きていきがちです。
そうした生活習慣を変更することはなかなかできませんが、歯が不要なものとは誰も考えていません。自分の歯を大切にしなかったつけを支払う前に、もう一度歯のありがたさを再認識していただければと思います。
歯や口は、ものを食べるだけの器官でなく多くの働きがあります。
代表的な働きをみてみましょう。

かむことの重要性を唱えたフレッチャーイズムという考え方は、よくかむことによって食欲のコントロールを行って過食を防止し、疾病予防や長寿、健康促進、肥満防止に働くというものです。
運転中の眠気防止にガムをかむことが有効であることはよく知られていますが、かむ運動が、咀嚼に関係する筋肉の緊張と弛緩を伴うため、この交互の運動が血液をポンプのように脳からの静脈血を心臓に送ります。
さらに筋肉の張力が強まることが覚醒効果を生み、大脳皮質を刺激し、脳の働きを活発化し、思考力や記憶力、判断力、注意力などを高めて頭のめぐりがよくなります。

岩手医科大学の田中教授によると、長期にわたる歯の喪失が学習記憶能力を低下させ、脳細胞に変性を起こさせるとの報告もあります。姿勢を正しく保つことでもこの効果が得られるので、子供に姿勢をよくさせるのは単なるしつけだけでなく意味のあることなのです。

逆に猿のかめなくした側の脳の退化が認めれた実験もあり、人間でも認知症との関わりが推測されています。実際に多くのと老人施設などからかむことと認知症や寝たきりなどの改善との相関があることが指摘されています。噛むことで唾液分泌を促し虫歯や歯周病の抑制にも働きます。

またスポーツ選手がガムをかみながらプレーすることがありますが、それはプレー中の緊張やストレスを緩和するためのものです。試合中にマウスピースを入れるのは歯やあごを守るだけでなく、その噛み合わせによって力の入り具合が変わって成績に反映するほど噛むということは彼らにとって重要な事柄なのです。
やけ食いを持ち出すまでもなく、このようにストレスの多い現代人にとって、噛むことはストレスブレイカーの働きをしています。

 

噛めない弊害 / 歯周病のお話し P 2 / 17

先ほどのお話とは逆に歯を失ったり噛めないことの問題もあります。インプラントを除いて自分の歯の代用品としての入れ歯などは自分の歯ほどは残念ながらかめないことが多いのです。

残った歯が21本より少なくなると、かむ力が大きく低下することがわかっています。
かめない=食べられない、ですから栄養摂取上にも問題ですし、要介護高齢者の日常生活における楽しみの第一位は「食事」で、食欲と言う死ぬまで残る本能を疎外する歯の喪失は無視できないものです。

またかめないことで唾液の分泌量が減って唾液の殺菌力や免疫力が少なくなり、口を含んだ消化器や呼吸器の病気にもかかりやすくなります。
そして歯を失うと、かむ力が残った歯だけに大きな負担をかけることから、残った歯まで悪くなることが非常に多くなり、噛む能力の障害、発音、審美の障害が起こることもあります。

歯や噛み合わせが姿勢制御や全身骨格の一部として身体を支える構造的器官としての役割も指摘されており、噛み合わせ不良と肩こりや頭痛、腰痛などの不定愁訴との関係も取りざたされています。

また、歯の喪失が日常生活上での自信の喪失につながることも多く、外食をふくめて外に出ることに消極的になったり、人前で喋ったり笑うことへの抵抗感を生むこともあり、精神的、社会的障害につながることがあります。
さらに噛むことがアンチエイジングと密接につながっていますので、老化を早めることにもなってしまいます。

そして噛めない、あまり噛まない、食生活になっていることは退化ともいえます。
筋肉は痩せて機能低下し、骨は細くもろくなり、はては免疫力の低下など身体の機能は衰えていきます。生物としての生命力が衰えていくのです。

人間は楽が大好きです。音楽など楽しいことはいいとしても、楽をして負担を減らすことの代償がいっぱいあることもご存知のことでしょう。

このように歯を失うことと噛めないことのデメリットは枚挙の暇がないほどありますが、現時点での問題は日常生活の上で、生活の質(QOL)や日常生活活動(ADL)が低下してしまうことです。
社会生活や文化的な活動を営む上で、歯は不可欠な存在です。
なんとか食べられればいいと簡単な話しでは済まないものなのです。

 

歯周病とは? / 歯周病のお話し P 3 / 17

歯を失うことの損失の大きさをご理解いただけたことと思いますが、歯周病(歯槽膿漏)とは、口の中に常に存在する細菌の一部が、食べかすを栄養にして増殖し、その菌の出す毒素によって歯肉が腫れたり、出血したり、ひいては化膿して骨まで溶ける病気のことで、重症では歯を失うこともあります。

以前の日本人は虫歯で歯をなくす方が多かったのですが、ある程度のハブラシ習慣が定着したことや高齢化ためか、現在の40歳以上の人の歯を失う原因の約80%が歯周病といわれています。
平均寿命が戦後急に延びたことも関係があるのかもしれません。戦前の平均寿命は50歳くらいでしたから、歯周病で歯を失うまで寿命がもたなかったともみることができるからです。

歯科疾患実態調査によると、歯肉に何らかの異常がある人は人口の70%、その推定人口は9500万人にも達し、特に中高年者の80%が歯周病にかかっています。国民全体の罹患率でみると、このように多くの人々がかかっている病気が他にあるでしょうか。
しかし治療を受けている人は114万人、異常がある人のたった1.2%しかいません。
歯周病にかかっていることに気付いていない人や、気付いていても治療を受けていない人がいかに多いかわかります。
その原因は、歯周病で直接的には死にませんし、先ほど述べた歯周病による障害を知らないこと、末期にならないと「痛まない」ことが病気であるとの認識を遅らせその時点では歯を失う現実味がないことです。

初期ではほとんど自覚症状がないため、気付いた時はかなり病状が進んでいることが多く、知らぬ間に忍び寄る病魔、そこからサイレントディジーズ(沈黙の病)と呼ばれているのです。「痛みがないこと」は「健康である」ことと同じではないので注意が必要です。

歯を長持ちさせ、歯を失わないためには歯周病と闘う必要があります。歯周病とはどのような病気かご存じでしょうか。
歯周病は口の中に常に存在する細菌の一部が、食べかすを栄養にして増殖し、その菌の出す毒素によって歯肉が腫れたり、出血したり、ひいては化膿して骨まで溶ける病気のことで、重症では歯を失うこともあります。歯周病は以前「歯槽膿漏」と呼ばれていたもので、歯肉だけに炎症がある「歯肉炎」と、さらに進行して歯肉の炎症だけでなく歯を支える骨が溶けてくる「歯周炎」に分類されます。

歯を失う原因の大半がこの歯周炎です。罹患率からすれば国民病といっても差し付かえがないほどですから、決して他人事では済まないのが歯周病です。

 

歯周病の原因 / 歯周病のお話し P 4 / 17

このように歯を失う最大の原因であることや全身疾患にも影響することから、生活の質(QOL)と日常生活活動(ADL)の低下をもたらす歯周病ですが、これと闘うにはまず相手を知らなくてはなりません。

歯周病の原因には「食と生活習慣」、「全身的因子」と口の中の「局所的因子」の三つの因子があります。
全身的因子については次の項『歯周病と身体』で述べますので、ここでは局所的因子を中心に簡単にお話してみたいと思います。
キーワードは「細菌」、「かみ合わせ」、「強い力」、「不十分な歯科治療」です。

 

歯周病と細菌 / 歯周病のお話し P 5 / 17

歯石と呼ばれる歯の表面にこびりついた石のようなものが歯周病の原因と思われている方がいらっしゃいますが、これは正確にいうと誤りです。
その真犯人はプラークやバイオフィルムと呼ばれる細菌の塊です。
歯石はプラークが石灰化して硬くなったものですから、確かに身体にいいものではありませんが、その病原性はプラーク自体よりずっと低いものです。
実は歯石の表面が粗雑になるためにプラークが付着しやすいことの方が大きな問題なのです。

口の中は唾液という水分があり、時折食物という栄養素が運ばれ、体温という適度な温度があります。細菌にとって非常に住みやすく繁殖に適した環境なのです。
こうしたことから口の中には600種類を超える微生物が生息し、唾液一滴にさえ何億もの細菌が生息しています。
歯周病はこの口の中に生息する細菌によって起こる感染症です。
重度の歯周病の人と健康な人の口の中に生息する細菌の種類や量が違うこともわかっています。

その歯周病原因細菌が集まって歯の表面などに塊を作ります。
人が作る町に似ていますが、外敵から身を守るために城壁を張り巡らせるように、細菌は多糖体というねばついた物質で、町全体を城壁だけでなく空までもシールドのように覆います。

こうしてシールドによって抗生物質や消毒薬までも跳ね返す完全に隔離された空間ができるのです。無法者の町ですから中ではやりたい放題、中の細菌は誰に邪魔される心配もなく酸や毒素を撒き散らし、虫歯や歯周病の天下となります。
こうした細菌の町をバイオフィルム(プラークや歯垢)と呼びます。
わずかプラーク1mg(1gの千分の1)中に1千万個以上、東京都の人口に匹敵する数の細菌があり、口全体ではとてつもない量の細菌がはびこっています。

歯周病と闘うには、まずこれをやっつけなければいけないことがお分かりいただけるでしょう。喫煙や糖尿病など、この後で述べる他の因子が加わり因子の数が多いほど歯周病リスクは高くなりますが、細菌因子だけでも歯周病は発症します。
このことから細菌因子は、歯周病の重要な基礎因子であるといえます。

しかし風邪の流行でもおわかりのように日常生活において無菌的な生活は不可能です。それは空気と食物の入り口である口の中も同じですが、一方で清掃と管理で細菌の数を減らすことはできます。

人の身体には細菌と闘うための免疫やしくみが備わっていますので、多少のことならそれらに打ち勝つことができます。
またそうした健全な身体を作って維持する必要があり、これがアンチエイジングでもあるのです。この清掃については別ページ「歯磨きのお話し」に述べましたので参照ください。

 

歯周病と歯のかみ合わせ / 歯周病のお話し P 6 / 17

歯並びが悪いことや、歯を抜いたままにして放置したり歯の治療途中で放っておいた場合、歯の移動が起きてしまうことがよくあります。
不適切な歯科治療でも起こることがあります。
こうした状況は本来の歯のあるべき位置からずれることを意味し、うまくかみ合わさらずに一部の歯に集中して力がかかります。
その時点では気付かないものの、実は歯の寿命に関わる一大事なのです。

簡単にいうと「かみ合わせが悪い」ということです。
得てしてこのような場合は肩こりや偏頭痛や後頭部の首のこりに悩まされていることが多くあります。問題解消するには歯にかかる負担・力の適正な配分が必要になり、対処法としては矯正治療、補テツ治療 、かみ合わせ治療などがあります。

最先端のインプラント治療、入れ歯や人工の歯を作る補テツ治療、歯を動かす矯正治療、歯周病の原因となり進行を助長するもの、全てに共通するのが『歯のかみ合わせ』です。
歯並びの問題はかみ合わせの問題でもあります。

かみ合わせに問題があれば、歯の寿命が短く、またどんな話題の治療であっても長持ちせずその努力が水疱に帰すことは想像に難くないでしょう。

 

歯周病と強い力 / 歯周病のお話し P 7 / 17

物事には何でも「適度」があり常に「限界」が存在することはご存知のことだと思います。
人の身体にもその能力や機能に限界があり、歯にも設計上の限界があります。
そしてその限界も本書のテーマでもある老化により年々狭くなるのが通常です。
歯周病に関わるその限界とは、歯に負担をかける力の問題です。

第一の問題は、ブラキシズムと呼ばれる歯のくいしばりや歯ぎしりです。
これらの運動は、本来歯が休んでいるべき時間も歯に持続的な無意識の強いかむ力が加わる特徴があり、歯にとって強烈な負担力となり歯周病の大きな因子となっています。
強い継続的な力が長期間に渡るため、歯の著しい磨耗や歯のへりが尖った形態をしている人はこれを疑っていいでしょう。歯のぐらつきもでることがあります。

ここで注意していただきたいのは、こうした現象が起きるのはかむような強く歯同士を接触させた運動だけでなく、歯同士を軽く接触させることでも起きることです。
机の上にじっと置いてある歯ならいざ知らず、人には常に身体や口の動きがあり歯を軽くでも接触しているとその振動が歯に伝わります。
こんな微振動でも歯は磨耗し、歯周病を引き起こす力を持っているのです。

こうしたブラキシズムは無意識の運動ですから、ほとんどの人が気付いておらず、自分の意志でやめることもできない運動です。そのため対処が困難で長期化することがあります。
別ページ「ストレスと歯」で詳しく述べるストレスや性格との関連が強く、歯のかみ合わせの問題がなければ心理的な対処しか元から断つ方法がありません。しかし一般的にはマウスピースのようなもので歯を守る対症療法がよくとられています。

第二の問題は、ブラキシズムによる歯への負担に加え、ブラキシズムの結果による歯の磨耗がさらに歯に負担となっていく問題です。
歯がすりへると上下の歯同士の接触面積が広くなります。コンクリートにチョークで絵を描いているとチョークの先が平らに太くすり減ってくることと同じ現象が起きるのです。
歯のかむ面積が広過ぎることは歯に大きな強い力がかかることになり、これがさらに歯周病を増悪させる因子となります。
この対処法は、かみ合わせ治療や補テツ治療などがあります。

 

歯周病と不十分な歯科治療 / 歯周病のお話し P 8 / 17

歯とぴったり合っていない銀歯などの人工の歯や、噛み合わせに問題のある人工の歯などは、いくらその材質が良くとも、またいくら美しくとも身体には不満足です。
そうした芳しくない入れ歯や人工の歯を使っている場合、歯とぴったり合っていないその隙間に微量であってもプラークが入り、虫歯や歯周病の原因となります。

銀歯が取れて歯を見たら、歯が真っ黒だった経験はありませんか?これが原因です。
また噛み合わせの問題はあごのスムーズな動きを邪魔したり、噛む力を十分に支えられないために残った歯に負担がかかることです。

今のお困りではないとしても、悪いことに気付いた時は手遅れになることが多いのも歯周病の怖いところです。
歯の寿命や将来の生活の質を考えると多少は時間と費用をかけてでも、多くの選択肢の中から最適の方法を選ぶことをお勧めします。
この対処法は、補テツ治療 、噛み合わせ治療などです。

 

その他の歯周病原因因子 / 歯周病のお話し P 9 / 17

口を閉じても上下の前歯の間に隙間が空いている人、上の前歯が前に飛び出している人、一部の鼻疾患がある人などは、口を閉じにくく口で呼吸をする人が多くいます。

口で息をすると口の中が乾燥してプラークが歯に付きやすいことと、唾液の蒸発によって歯肉が乾燥して炎症を起こしやすくなります。
唾液の重要な働きは別で述べますが、唾液の生体防御機能がなくなることによって歯周病だけでなくいろいろな障害につながります。

歯や口の中の形の異状によっても歯周病の因子になることがあります。
例えば、上の前歯の裏側にまれに縦にひびが入ったようなへこみがある場合や、奥歯に時折見かけるいぼのような突起がある場合です。

通常は見かけない異常な形態ですが、こうした形態は歯ブラシなどによる清掃の障害となり歯周病にかかりやすいのです。
また歯肉に付着するひものようなものや、骨に付着した歯肉自体の幅が狭い場合などでも同様の問題となります。

 

歯周病と生活習慣 / 歯周病のお話し P 10 / 17

先ほど述べた歯周病の原因となる三大因子の二つ目が「食と生活習慣」です。
食を含んだ生活習慣はアンチエイジングと密接に関わることです。生活習慣病やアンチエイジングについての詳しいお話しは別に譲るとして、ここでは軽くお話しさせていただきます。

ここまでお話しした因子以外にも食習慣、喫煙、ストレスなどの生活習慣、糖尿病などの全身疾患の一部など、多くのリスク因子が歯周病に関わっています。
リスク因子が多いほど歯周病になる確率が高く、治りにくいのです。
歯周病にかかっている人の歯周ポケット内の抗酸化能力レベルは健常者より低いことがわかっており、抗酸化が一つのポイントになる可能性があります。

生活習慣の中で特にリスクが高いのが喫煙です。タバコ4本で身体の持つ抗酸化力を0にする力があるといわれています。この意味でも抗酸化能力の減少しやすい喫煙は歯周組織にとって悪い習慣ということができます。
しかし禁煙に成功すると歯周病の改善がみられることから、禁煙努力すれば報われるのも事実です。歯周病だけに関していえば、一年間の禁煙でも歯周組織にかなりの回復がみられます。

しかし禁煙により非喫煙者とリスク面で同等になるには11年かかることから、可能な限り早い禁煙をお勧めします。喫煙には歯周病以外にも、非喫煙者に比べて口の中の発癌リスクは3倍と高く、特に飲酒しながらの喫煙はさらにリスクが上昇します。

癌になる前の病気である前癌病変に至っては6倍のリスクがあり、また10年間に失う歯の本数も2~3倍多いと報告されています。また喫煙はインプラントが長持ちしない度合も7倍と高く、歯科領域ではプラス面を探すことが困難な状況です。

歯周病は、高血圧や高脂血症、動脈硬化、糖尿病、肥満などと同じく生活習慣病です。平安時代の貴族である藤原道長も糖尿病を患った一人です。当時、栄華を極めていた道長ですから、美食にふけり、身体を動かさない毎日を過ごしていたことが想像されます。

飽食の時代といわれる現代の日本人にも同じことがいえるでしょう。生活習慣病を生みやすい食や生活習慣、ストレスを生みやすい生活習慣、こうしたことが歯周病の原因にもなっています。
このため歯科医の努力だけでは治療効果が上がらないことが調査研究からも証明されており、細菌数の減少とリスク因子のコントロールのためご本人の生活習慣の改善や自助努力が必要となってきます。糖尿病の治療で食事療法や運動療法が一緒に行われるのと同じです。
確かに歯石を除去することには口の中の環境をよくする一定の効果がありますが、定期的に歯石だけ取ってもらうというあなた任せでは治らないことがおわかりいただけたことでしょう。

このように歯周病が生活習慣とかかわりが強く、また他の生活習慣病とお互いに影響し合う関係である以上、生活習慣の改善によって生活習慣病自体と正面から向き合う必要があります。

病気には必ず原因があり、原因を取り除くことによって治ることが疾病治療の大原則です。さらに病気にならないためには、原因を作らないことが大切になります。
治療と予防は同根なのです。歯周病と特に関連が強い糖尿病など、生活習慣病については別に述べますのでご参照ください。

 

歯周病と身体 / 歯周病のお話し P 11 / 17

今度は三大歯周病原因の最後、全身的因子についてお話します。
歯周病の最大の原因がプラークであることはお話しました。しかし時折ではありますが日常臨床ではプラークが多量についていてもさほど歯周病の進行がみられない症例や、逆にほとんどプラークがついていないにもかかわらず歯周病が進行している症例に出会います。虫歯の進行にも似たような感想を持ちます。
大半の症例はプラークと歯周病の進行は比例するにもかかわらず、一見不公平にも見えるこうした現象はどうして起きるのでしょうか。

その理由は、歯周病の発症やその進行にはプラークという直接的な因子だけでなく、先ほど述べた生活習慣や食の問題、身体の歯周病に対する感受性や抵抗性、遺伝的因子、さらに環境因子などが複雑に影響しているからです。

今度は全身的因子についてお話ししましょう。
歯や口は消化器官と呼吸器官の入り口でもあり、身体全体とつながっていますので、口の中に発生した病気が全身に、あるいは逆に全身の病気が口の中に影響することがあることは容易に想像できると思います。

特に歯周病と全身は相互に影響し合う可能性が高いことが最近の研究で少しずつわかってきました。先ほど局所的因子で述べたプラーク1mg中には一千万個以上の細菌が含まれており、それが唾液や血液の中に入って口から離れた臓器に運ばれてそこで病気などの悪影響を及ぼすと考えられています。

歯周病が関連する全身疾患として糖尿病、心筋梗塞や狭心症などの心臓・血管系疾患、肺炎などの呼吸器系疾患、消化器系疾患、低体重児出産・早産、骨粗鬆症などがあります。
こうした全身疾患は歯周組織の健康や歯周病に影響すると同時に、歯周病がこれら全身疾患に強い影響を与えていることが確認されたり、その関連性が推測されています。
すなわち糖尿病などは歯周病のリスクとなりますが、反対に歯周病も糖尿病などのリスクとなるのです。このような全身疾患に加え、喫煙やストレス、肥満もリスク因子と考えられています。

 

歯周病と肥満 / 歯周病のお話し P 12 / 17

歯周病でも糖尿病と同じく、肥満や食べ過ぎとの関係が重視されています。肥満は肝臓から放出されるHDLコレステロール(善玉コレスレロール)を低下させ、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を上昇させることで高脂血症などの異常脂質血症を生み出し、さらに血栓を生じやすくさせます。

特に内臓脂肪の過剰な蓄積である内蔵脂肪型肥満は、糖尿病、高脂血症、高血圧などの生活習慣病の要因となり、動脈硬化疾患や虚血性心疾患の進展に中心的な基盤になると考えられています。

内臓脂肪型肥満ではアディポネクチンという脂肪細胞から分泌されるタンパク質が少なくなります。アディポネクチンには炎症を抑える働きがあり、また動脈硬化・糖尿病になりにくくする作用も持つています。
したがって肥満は炎症を起こしやすく、また動脈硬化も一種の炎症状態であるといわれています。すなわち、肥満や動脈硬化そのものが目立たず隠れた感染や炎症の状態であると考えられているのです。

一方、歯周炎も全身にとっては隠れた感染や炎症状態と捉えることができます。
事実、歯周炎患者では炎症値が上昇しており、歯周治療に伴って低下することも報告されています。

慢性化した歯周炎に侵された病巣には、他の臓器に類を見ないほど多量の細菌等がいます。中程度の歯周病にかかり人の28本の歯すべてに5~6ミリの深さの歯周ポケットがあった場合、身体が細菌の塊と接する表面積はおよそ72㎠、すなわち手のひらの大きさです。とんでもない大きさの感染面積になります。顔に手のひら大の潰瘍やただれた傷があったらあなたはどうしますか?大げさな表現でなく、全くの事実なのです。
その傷から細菌が身体にこうしてる今も入り続けているのです。

プラークから細菌が飛び出て、唾液や血液の中に入り込み、血流に乗って口から離れた別の臓器に運ばれてその場所で増殖し、病気や障害の原因になると考えられています。事実、歯周病原因菌が心臓の弁や動脈硬化を起こした血管から検出されたことが報告されています。
このように歯周病は口の中の問題だけにとどまらず全身的な病気につながる恐れがあるのですから、無症状だからといって決して侮ることはできないものなのです。

 

歯周病と肺炎 / 歯周病のお話し P 13 / 17

肺炎などの感染症は日本人の死因の第4位で、全体の8%を占めます。肺炎で死亡する人の92%が65歳以上の高齢者で、年々増加傾向にあります。
さらに肺炎のために長期間の入院を余儀なくされた高齢者は安静に寝ているため体を動かすことが少なく、身体のさまざまな場所が退化・萎縮して活動能力の低下をきたした結果、要介護状態になってしまう危険性が指摘されています。

実はこの肺炎は歯周病に関係があるのです。それはまず、口が食道と気管両方につながっているという構造にあります。通常は食べ物と空気をうまく交通整理できているのですが、高齢になると飲み込む能力や誤って気管に入った食物を咳によって排除する能力が劣ってくることがあり、これで肺炎を引き起こすことがあります。

誤って気管に入った食物や唾液に含まれる細菌の数が多ければ多いほど肺炎発症のリスクが増えます。歯周病は細菌による感染症ですから、細菌で満たされた口が呼吸器の入り口であることは無視できません。歯周病であることが肺炎のリスクなのです。
こうしたこともあって、病気で入院中の入院患者さんの口の中のケアを歯科衛生士が実施することで肺炎の発生を減少させている病院も出てきました。

自立生活者に比べて寝たきりの方の口の中は細菌検出率が高いことが知られており、また寝たきり度合が高いほど肺炎などによる発熱日数も増える傾向にあります。
口の中を清潔にし、さらに歯周病を軽減することによって肺炎の発症を減少させる可能性が指摘されているのも当然のことです。

口の中の衛生状態と日常生活活動(ADL)、認知機能、栄養状態が相関関係にあることがわかっています。つまり口の中を清潔に保つことがこうした事柄をいい状態に保つことができるのです。

口の中の清掃には薬剤によるうがいでは不十分で、歯ブラシなどによってプラークをしっかり取り除くことが大切です。高齢になると手先の動きが悪くなり根気もなくなるため、電動歯ブラシの利用もいいでしょう。

また歯ブラシが歯肉に当る刺激が口の中の知覚神経を刺激し、飲み込む運動や咳の反射運動を刺激して機能訓練としての一面も指摘されています。こうした口の中のケアには施設入所者の「顔色が目に見えて明るくなった」など、身体的また精神的な活動の維持や改善に有効であるともいわれています。

 

歯周病と早期低体重出産 / 歯周病のお話し P 14 / 17

その他に歯周病との関連が疑われているものに早期低体重出産があります。
早期低体重出産とは、分娩時期より早く妊娠22週以降37週未満で出産する早産と、2500g未満の低体重出産をいいます。
2500gの体重に成長するには平均34週程度が必要ですから、早産の場合は低体重を伴う傾向にあります。こうした早期低体重出産の原因は種々ありますが、歯周病が一部関与している疑いがあります。

調査によって多少のばらつきはあるものの、歯周病が早期低体重出産に対して5倍程度の危険率があるとの報告があり、また歯周治療を行った場合には早期低体重出産が減少した報告もあります。
このメカニズムや歯周病との因果関係などにおいてまだ十分に解明されていないこともあるのですが、特に妊婦さんは口の中の管理が非常に大切であることには間違いはありません。

治療するのは妊娠中期の5~7ヶ月がいいでしょう。また妊娠中は妊娠による女性ホルモンの変化やつわり、生活習慣の変化に伴って口の中の環境が悪化して虫歯や歯周病が発症しやすくなる時期でもあります。
自分自身だけでなく生まれてくる赤ちゃんのためにも、丁寧なお口の中の清掃に取り組まれるといいでしょう。

 

歯周病治療 その1 / 歯周病のお話し P 15 / 17

歯周病予防と治療を考える上でのポイントは「生活習慣の改善」と「歯周病治療」です。
歯周病と闘うには、先ほど述べた患者さんの生活習慣を変える自助努力と歯科医院での歯周治療が車の両輪のようにうまく平行して進む必要があります。
どちらかが欠けたり力が弱ければ同じ所をぐるぐる回るようになってしまい、治癒というゴールにたどり着くことができません。二人三脚でじっくりと取り組んで参りましょう。

では、当院で実際の歯周治療はどのようにして行われるのか簡単にご紹介しましょう。
歯周病の病状は人により千差万別ですから、まず最初は闘う相手をつぶさに観察し、今後の治療方針を立てるために歯周検査を行います。
歯周検査とは現時点の病状を正確に知るために行うもので、レントゲン撮影、歯と歯肉の境目にできた歯周ポケットの深さや出血の有無、歯の揺れ具合などの検査を行います。かみ合わせの検査も合わせて行います。

次はその検査結果を元に現時点での問題点や治療方針のご説明をします。
この時点で緊急性のある問題に対しては応急処置やつらさを緩和する処置を行います。また歯の喪失や虫歯、かみ合わせなどの治療を要する歯周病以外の問題があれば、全体の治療計画を立てご説明します。
治療の主人公は患者さん本人ですし、先ほど述べた自助努力による治療へのご協力を仰ぐためにも、患者さんのご希望や治療見通しなど可能な限りコミュニケーションをとることを重視しています。ご説明内容にご了解いただければ、いよいよ治療に入ります。

歯周病が成立するにはプラークの存在が絶対条件であると述べましたが、歯肉炎や軽度の歯周炎では生活改善の自助努力と適切なお口の清掃によりほぼ正常な状態に回復することができます。
回復できないほどの破壊が進んでいない今が進行を食い止めるチャンスです。

こうしたことからお口の状態によっては、治療の第一歩はまずお口の清掃方法や習慣、タイミングなどのお話しや練習から始めます。
「磨いている」のと「磨けている」のは違うことで、ご本人の実感とのずれも多くあります。どうせ毎日することですから、上手な方が人生大きな得になるからです。歯肉の炎症改善と徹底的なお口の清掃との間には3~5日の時間的ずれがありますから、結果を急がず継続してください。

さらに歯の表面についた歯石を除去します。歯石の表面はざらついてプラークが残りやすく、歯ブラシなどによる清掃効果や効率を悪くするからです。
歯石の存在は歯肉の炎症状態をつくりやすいのです。こうした一連の治療が一段落すると再度歯周検査を行い、患者さんの自助努力と歯周治療が協力した結果を検査します。この検査で問題がなければ治療は終了となります。

 

歯周病治療 その2 / 歯周病のお話し P 16 / 17

二回目の検査で問題点がまだ残っていたることが判明した場合や、ある程度進行した歯周炎では、これに続いて歯周ポケット内のプラークや歯石の除去、歯の根の表面を平滑にする治療を行います。
歯周ポケットが一定以上深くなると歯ブラシの毛先が届かなかったり、ポケット内の狭い空間にある歯石が邪魔をして清掃できないからです。ポケット内のプラークなどの異物がなくなり、歯の根の表面が清潔になると、歯肉の炎症が収まってきます。これを治癒に結びつけようとする治療です。

この治療が一段落すると、再度歯周検査を行って治療効果を確認します。
検査結果がよければ治療を終了し、そうでないのならどこにどんな問題があるか把握して次の治療方針を決定するためです。

以上の治療と生活習慣の改善で多くの場合は治療が終了するか、安心できるレベルまで病状の軽減を図ることができてメインテナンスと呼ばれる経過観察へ移行できます。
しかし一部には病状の改善は見られるものの、まだいくつかの問題点が残ることもあります。また進行した歯周炎の場合には完治は期待できず、病気の進行を阻止することが目的となります。

そうした場合には、3DS等の抗生物質や抗真菌剤などの抗菌製剤を使う薬物療法や歯周外科手術、歯周病によって溶けた骨の再生手術などをご提案することがあります。

以前は一度失った骨は一生取り戻すことができず、治療によって現状を維持するのが精一杯でした。ところが医療の進歩により、GTR、エムドゲイン治療によって一部の骨を取り戻すことが近年できるようになりました。

この他にも歯周病を抑制したり機能の改善を目的としたインプラントや入れ歯、歯科矯正治療など多くの選択肢があります。
このような選択肢は初期的な治療が終わったお口の状態を拝見した後で、その方に適した方法をご提案させていただくことになります。

 

歯周病とメインテナンス / 歯周病のお話し P 17 / 17

歯周病治療後のメインテナンスが治療後の経過を左右する大切な鍵です。ご自宅での適切な清掃や生活習慣の改善に加え、定期的な歯科医院におけるPMTCをお勧めします。

PMTCとは定期検診の検査や単なる歯石除去でなく、専用器械を用いた熟練したプロフェッショナルによる徹底的な歯のクリーニングとプラークや歯石が再付着しにくい環境作りです。病気の元になる物質を歯のすみずみまできれいさっぱり取り除くPMTC治療は、予防と維持に非常に有効な治療で、力強い味方となってくれます。

以前のように歯周病=抜歯という時代ではありません。年だからしようがない、家系的に歯が弱い、とあきらめるのは早くありませんか。
確かに加齢をとめることはできませんが、『老化』はある程度コントロールできるように最近なりつつあります。こうした老化にブレーキを踏もうと取り組んでいるのが、アンチエイジング、抗加齢医療と呼ばれているものです。20歳の歯は無理でも、年相応、できれば快適で若々しい口を取り戻すことがまったくの夢でもなくなりつつあります。歯周病はコントロールできる病気なのです。

ここまでお読み頂いて歯周病の怖さがお分かりいただけましたでしょうか?
次のチェックリストで、あなたの歯の健康度をチェックしてみましょう!

○歯がしみたり、痛むことがある
○舌で歯を触ってみると、ザラザラした感じがある
○歯ぐきが何となくかゆいことがある
○歯を磨くと、歯ぐきから血がでる
○歯ぐきを触ると、ブヨブヨしている
○歯が以前より長くなった気がする
○甘いものが大好き
○柔らかいものが好きで、硬い食べ物は苦手
○食事のとき、よくかまずにすぐ飲み込んでしまう
○片方の歯だけでかむ癖がある

《判定》 当てはまると思われる項目はいくつありますか?
一個以下(青信号): 今のところ問題はないようですが油断大敵。
これからも歯に気を配って予防に努めてください。

二~三個(黄信号): 歯の病気には早期発見・早期治療が大切です。
鏡で歯の状態を再チェックしてください。
異常が見つかったら早めに歯科医院へ。

四個以上(赤信号): すでに何らかの病気があると思われます。
痛みなどの異常を放っておくと大変なことに。
何はともかく予約のお電話を。

歯周病の原因菌が心臓から検出されて大きな話題を呼びました。
歯周炎を放置することは、身体を慢性的な隠れた感染・炎症状態に置くことになるのです。こんな状態が身体にいいはずがありません。
当然歯の寿命も短くなりますし、あなたの寿命をすり減らしているかも知れないのです。
今症状がないからといって安心は禁物ですから、早めの処置と食や生活習慣の見直しをお勧めします。