かみ合わせで、身体が変わる!

歯は単にかむことだけのためにあるのではありません。 私たちはその恩恵を知らない所でたくさん受けています。 そして歯のかみ合わせがその歯の寿命を左右するといってもいいほど重要なのです。悪いかみ合わせは身体にまで及びます。

まだ歯のかみ合わせの重要性があまり知られていなかった時代に、ご来院された患者さまに、かみ合わせと歯、あご、身体の関係とその治療法などをご説明する目的で院長高岡が書いた小冊子です。 以前は印刷をして来院された患者さまに手渡ししておりましたが、ホームページでお読みいただけるようにしました。

人間が雑食でいられる理由

人間ばかりでなく、すべての動物は歯によって何を食べるべきかが決まっています。肉食動物の歯は、人間の犬歯と同じような尖った牙のような歯が交錯しており、顎は上下にしか動きません。それは敵を倒し、また肉を切り取るために都合のいいようにできています。
猫や虎などの肉食動物は肉を歯で食いちぎってはさして噛まずに、ごくりと飲み込んでしまいます。

一方、牛や羊などの草食動物の歯は平たい臼のような歯をしており、固い繊維を磨り潰すために長い時間かけて口をもぐもぐと動かしています。肉食動物の顎が食物を切ることを主体にした上下運動をすることと対照的に、草食動物は食物を細かく磨り潰すために横方向にも動かしながら顎を回転させ、もぐもぐとやっています。
テレビで草を食べている動物の顎の動きを見てみてください。
食べる物が違えば、歯も、顎の動かし方も違うのです。

人間はと言うと、前歯8本は薄く包丁の役目をして野菜や果物を切り取り、犬歯4本は肉食動物のように尖った歯で肉などを食いちぎれるようになっています。さらに奥歯16~20本は草食動物のように平たい歯で穀物を噛み砕き、すりつぶすことができるので雑食でいられます。
そして顎の動きは草食動物とまではいかないまでもかなり横方向に動かしています。歯が全て揃っていて、さらに適切な位置にしっかりと植わって、そして良い噛み合わせであれば問題はないのです。

しかしそこにちょっとでも問題があれば、顎を動かすたびに歯同士が引っかかり顎がスムーズに動かず、それ避けるために無意識に顎をいつもずらしていることになってしまいます。
これが後でご説明しますが、歯に負担をかけて短命になったり、歯周病や肩こりなどの全身的症状、色々な問題の出発点になっていきます。

食べ物と人間

前にお話ししたように歯によってすべての動物が何を食べるか決まっており、人間は野菜などを切るための前歯が8本、肉などを食いちぎるための犬歯が4本、穀物をつぶすための臼歯(奥歯)が16~20本、合計28~32本あります。そうすると歯全部が仮りに28本として、野菜は 8/28=2/7、肉類は 4/28=1/7、穀類は16/28=4/7となります。
したがって人間にとって適した食事は、全体を7とすると野菜が2、肉が1、穀類が4の比率なのだという説があります。

以前の日本では今ほど肉食傾向が強くなく、さらに蛋白質は主に魚からとっていました。ところが戦後急激な食生活の欧米化で、最近の日本では牛肉などの肉食が増えてきています。
さらに肉食や牛乳を飲むことで、丈夫な身体をつくるという蛋白質神話も健在です。以前の西洋医学では滋養物といえば蛋白質、脂肪、澱粉といわれていました。それが人間に最も必要なもののように申した時代もあったのです。

さらに真偽の程は分かりませんが、人類が飢餓状態であった氷河期に人体の遺伝子に蛋白質飢餓情報が植え付けられてしまい、現在でもアミノ酸・肉食への願望があるという説まであります。
歯の種類から申すと、西洋人でも肉食過多と言えるのですが、西洋の人は狩猟民族時代からの遺伝子を先祖から受け継ぎ、現在でも日本人より腸の長さが違うとか、消化酵素に違いがあるとも言われています。しかし日本は西洋化から日も浅く、戦後50年ではまだ一世代。とても遺伝子が変わる期間ではありません。

周りの近代文明・文化の影響を全く受けずに昔ながらの生活をしていたアフリカのある部族の口の中を調べたアメリカの歯科医師であるプライス博士の有名な論文があります。
博士が最初に口の中を調べた時は、よくアフリカ原住民の写真にあるような綺麗に並んだ白い歯がちゃんと生えていました。ところが西洋的近代文明・文化が入りこむと、食生活が狩猟や採取から一変してしまい、それまでの綺麗な白い歯は虫歯と歯周病(歯槽膿漏)にかかり、綺麗な歯並びはガタガタの歯並びになってしまったと記録にあります。論文の中に歯がぬけ、笑っている原住民の写真が載っています。

急激な生活や食生活の変化があっという間に何世代も営々と積み重ねてきた生活と身体のバランスを崩してしまったのです。近代的、西洋的な食生活への問題を感じずにはいられません。
日本人にとっても栄養やカロリーは取れればいいだけではなく、それを何でどう取っていくかを考えさせられます。

個人差のことを表す「因人制宜」、その土地の違いを表す「因地制宜」、時代の違いを表す「因時制宜」という言葉があります。簡単にいうと、時代やその地域、さらに人それぞれに違いがあり、それらを踏まえて考えないといけないという昔の人の知恵です。

一例としてニュージーランドにオールブラックスという世界最強のラクビーチームの話があります。
彼らが一日5リットルの牛乳を飲んでいることを聞いた日本のラクビーチームの栄養士さんが、日本チームの平均を調べたら0.5リットルだったそうです。強さの秘密はこれだとばかりに、1日5リットル選手に飲ませたら、全員下痢をしてどうしようもなかったという笑い話です。
まさに「因人制宜」、人種や環境を考えなかった失敗です。

食と健康

食べ物と身体に関する書籍もたくさん出版され、有機野菜や遺伝子操作をした農作物をはじめ食品添加物や食べ物について感心が高まってきています。
新聞だけに絞っても、汚染された食品についての記事を多く目にするようになりました。こういった食材の内容とともに、「何をどのように食べるか」ということも大変重要です。

現代の農法は供給する量や外見を最優先にしてきました。
さらによく言えばマイルド、悪く言えば風味を消した無味乾燥な食物に姿を変えてきたのです。
収量や流通、貯蔵のため、また売価を上げるために遺伝子や品種、土壌や化学肥料、農薬などの改良は行われてきましたが、その時栄養価が考えられたことはあまりないようです。
ほとんどの化学肥料は人間の栄養に必要なミネラルを土壌に戻さないため、土壌の質は現代農法によって低下してしまいました。
そして除草剤や殺虫剤などの農薬もそれに追い討ちをかけているのです。さらに食品として我々の手元にくる前に好ましくない化学物質が収穫後や加工の際に浴びせられることもあります。

健全な作物を育てるのには必要がなくとも、人間が食べる作物として必要な栄養素もあります。 また作物は流通や貯蔵のため熟す前に収穫されるため、作物の成長の後半に増えるビタミンとミネラルが少なくなります。
現在、貯蔵技術や温度管理などいろいろな農業への工夫が農業の計画管理を推し進めていますが、旬の季節をなくしたうえに栄養価の低下を招いている側面もあります。
このように、栄養価だけでなく残留農薬、土壌や環境にも我々は気を配らなければなりません。
人間が都合よく頭で合理化を考えるほど現実はうまくいっていないようです。

私が環境や食に興味を持った20年近く前ですら天然の食材の栄養価が下がって、当時の栄養士さんが栄養素の計算に旧来の栄養価が使えず困っていたのです。
現在では以前の栄養価と比べて格段の低下、ひどいものは栄養価ゼロという食材まで出てきました。
一例をあげますと、ほうれん草では、1950年から2000年の50年の間に、ビタミンCがわずか23%、鉄分は15%になっています。

私たちの食物はこれまで信じてきたほど栄養価が豊かではないのです。
確かに昔の食材、特に野菜はそのもの特有の味がありましたね。
最近有機栽培でも味のある野菜にあまりお目にかかれなくなっていますが、それどころか若年者に好まれるよう独特の風味をなくした味のうすい野菜作りが盛んなようです。
栄養素や栄養価が劣れば、毎日の食事で多量に食べないと必要摂取量を確保できなくなる問題があります。

我々は太古の昔の生活をすることも、人間が管理する農業を放棄することもできないでしょう。
また土壌だけでなく空気や水我々人間を取り巻く環境の変化、そして人・時間・社会からのストレスも考慮しなくてはなりません。
このような現状を考えると、食品の安全性だけでなく、その中身、そしてそれをどのように食べるのか、こうしたことをこれからの我々は考えていかなければならないようです。
そして、自己防衛策の一つとして、アメリカのように不純物を取り除いた栄養素だけのサプリメントが我々の日常生活の中に登場する日が来るのかもしれません。

最近の日本の食生活では脚気や壊血病など栄養素の欠乏症(疾患)はほとんど見受けられなくなりましたが、栄養素の不足は存在します。またカロリー不足は過去の話しとなり、多くは過多が問題になっていますし、栄養素の偏り、また何からどのように摂取するのかが問題となっています。
役所などの発表する栄養素の数値は欠乏症を予防するには十分であっても最適な健康、活力あふれる強力な免疫力のためには十分でないのです。
「病気でない」=「健康」、ではないことにご注意ください。

先ほどの「因人制宜」、「因地制宜」、「因時制宜」から考えても日本人には日本人に適した食べ物があるはずです。そうした中からその地でとれた旬のものを食べる、昔ながらの食事が見直されてきました。一度、今日の食卓を点検してみてはいかがでしょうか。

人間とかむこと

人は進化の過程で発音と会話能力を獲得して進化のスピードを上げてきたと考えられています。そのため口が餌を咀嚼すること以外にも使われるようになり、他の動物より口が目や鼻、耳に近く脳の真下に存在します。しかし噛むことがそうした器官に影響を及ぼすことになりました。

また脳の発達により頭部の重量が増えたにも関わらず、それを細いきゃしゃな首で支えながら様々な筋肉を使って2足歩行という体のバランスを取ることで他の動物にできない行為が可能になっています。
これは非常に繊細なバランスが要求され、脳は常に多くの神経や血管、筋肉などの組織を微調整する必要があります。

あごの力を抜いて頭を左に傾けると、上下の歯の噛み合わせが変わるのがお分かりだと思います。これは姿勢と噛み合わせが相互に関係することを意味しており、噛み合わせが首や肩こりの一因になることがある理由の一つです。

戦後の軟食化傾向がいわれる中、幼稚園児のIQに噛む能力が関係していたという報告もあります。
また老人病院での歯科治療や入れ歯作製により痴呆の軽減や寝たきりの減少、長期入院の減少などの報告もあり、噛める状態になることで首や頭の血液循環向上による効果だと考えられています。

先日も治療で来院された老人病院の看護婦さんが、「入院されている患者さんで自分の歯が揃った人は肌のつやもいいし元気ではつらつとしているけど、ガタガタの入れ歯の人は元気や覇気がない」。
「これを見て、私の歯を大切にしたいと思いました」とおっしゃいました。私も同感です。

松平邦夫医学博士も著書の中で、「重度の歯周病(歯槽膿漏)の人や、かみ合わせの悪い人は総じて体調異常を訴え、働く意欲を減退させ、覇気を失っている。運動をやめると日々筋肉が衰えていくように、かむことを怠ると日々脳の衰えが生じてくるのである。長い間、植物人間としてベッドに横たわっていた、つまりかむ活動が停止した患者さんの死亡時の脳の重量は、正常な成人の約半分になっていたという」と述べられています。

噛むことは消化に関わる以外にも、気づかないところでたくさんの恩恵を私たちに与えてくれています。
噛むことと体との関係は「意外と知られていない歯の働きとかむこと」をご覧ください。

かむことと社会性

かむ機能の回復は「食文化の回復」と考えています。
人間にとって「食」は成長発育、生命維持、健康保持といった「生」の側面だけでなく、人間を人間らしく保つ文化的、社会的側面があります。
家庭や社会において食卓を囲んで談笑したり、外交交渉で晩餐会を開くのもそうした面からです。料理や食についての数々の書籍や職業も存在します。これらすべてが「食の文化」と言えるでしょう。

ところが噛む能力に問題があると、家庭、職場、旅行、宴席、出張などで同席した人々と同じ食べ物や料理を共にするという社会共同生活ができなくなってきます。
親子三代同居して一見幸せそうに見えるおばあちゃんが食事の時となると、わいわいと賑やかにステーキにかぶりついている子供や孫の隣で、一人ひっそりと豆腐を食べている話を聞いたことがあります。お嫁さんにしてみればおばあちゃんの健康と栄養を考えた結果としても、一人疎外感を持ってしまうのが人間です。それとは反対に子供達と同じ脂っこいものを、遠慮しながら我慢して食べているおじいちゃんもいるようですが・・・・。
ともかく歯があった時代と同様に繊維性の食べ物や硬い食べ物を噛める入れ歯が望まれます。

食欲とは別に人には噛む欲求と噛むことの意義があります。宇宙食も当初チューブに入った物でしたが、かむ事を忘れたものは精神的に問題があり神経症になってしまうそうです。
1日3回、楽しく食事をすることと、しっかりかむことを忘れないで頂きたいのです。
精神的にも肉体的にも健康な生活は、まずかむことから始まるのです。
かむ事の重要性をしっかりと認識していただきたいと思います。

体は精密機械

たかだか歯一本の噛み合わせで体全体の姿勢が崩れ、肩こりや頭痛、首の後ろのこり、さらに背中の痛みや腰痛など様々な症状を起こすことに驚かれるかもしれません。
あるロボット工学の研究者の話しで「研究をすればするほどロボットの構造や形が自然と人間の形になってしまう」と聞いたことがあります。人の体は知れば知るほど本当にうまくできていて現代科学の粋を持ってしても人を越えられないのが現状です。

新幹線がホームから発車できなくなったことが最近のニュースに出ていました。ドアのレールに50円硬貨一枚が挟まってドアが閉まらなくなったのが原因でした。技術の結晶であるあの大きな新幹線がたかだか50円硬貨一枚で動かなくなるのです。
人も同じで精密であるがゆえに、また体の異常を無意識のうちに治そうとするがゆえに、歯一本が全身にまで影響を及ぼすことになってしまうのです。

歯と歯を支える顎の骨の間には、歯根膜(しこんまく)という薄い膜があります。この膜はなんと8~15ミクロン(1ミクロン=1000分の1ミリ)のわずかな厚みまで認識できるのです。
歯で髪の毛一本噛んでも分かるでしょう。それだけかみ合わせは敏感なのです。

この敏感さが、痛い歯をかばって顎をずらしてその歯を避けて食事をするように、顎をずらす(噛み合わせが変化する)ことになったり、必要以上に歯を噛みしめたり、歯ぎしりを起こしたりしてさらにかみ合わせが悪くなっていきます。

ところが、人間には順応という能力があり、自分や周りの環境が変わってもそれに対応してきました。ところがこの順応が時として悪いことでも自分の中に取り入れてしまうことがあります。
歯も急激な変化では歯根膜がこのかみ合わせはおかしいと教えてくれるのですが、時間をかけたゆっくりとした変化にはそれに身体が慣れていってしまいます。こうしてかみ合せの不調和が固定化してしまいます。

この噛み合わせの異常が、歯ぐきに負担をかけて歯周病(歯槽膿漏)になったり、顎の関節が壊れてしまう顎関節症や頭痛、首や肩、背中のこり、腰や膝の痛みなどの全身症状を引き起こす原因になるなど、身体全体に悪影響を及ぼす結果になってしまいます。

詳しくは後でご説明しますが、ほんの些細なことでも歪みが起きます。
たかだか歯一本、されど歯一本くれぐれもご用心を。

それはある日突然襲ってきた

開業をして間もなくの事ですが、右の顎の関節が痛く口も満足に開けられず、あくびをしたり固いものを噛むと顎がガキッという音と供に激痛が走り、うずくまるほどの症状に悩まされました。
あのつらさは病気になった人でないと分かりません。
現在でも未だ十分に解明されていない顎関節症でした。

当時専門医に相談しても対症療法しかなく、我慢して治療を続けましたが一向に良くなりません。あげくのはてには一生治らないと言われ、このつらさから逃げ出すために必死になって勉強しました。当時は必死でした。
そんな時私の恩師、西村先生と出会い、独自理論と東洋医学を取り入れた治療法で、何と長年の苦しみから開放されたのです。それまでは東洋医学は何だかうさん臭く感じておりましたので、限界を感じつつも西洋医学一辺倒でした。百聞は一見にしかず、と申しますが百見も一つの体験に劣ります。

かみ合せの不調和によって引き起こされる病気である「咬合病」との出会いでした。こうしてかみ合わせと顎、体調や全身症状、精神的な状況と症状の変化など、自分の身体を使った勉強が始まりました。かみ合わせの勉強をすればするほど、その有用性と危険性が分かってきます。
これは諸刃の刃ですから、使い方を誤れば大怪我をします。
治すことができるということは、かみ合せの事を十分理解し慎重にやらないと、知らずに壊すこともあると言うことなのです。

またさらに難しいことにまだそこまでの症状がなく、その崖淵まで行っていない人に「そちらは崖だよ」と教えてあげても本人にはそれが見えないことです。そこまで行けばイヤでも分かるのですが、そこは辛い場所だし、一度行ってしまえばなかなか引き返すことができないのですが…。
しかし本人には一向に自分の問題として理解されない、このもどかしさが人に伝える難しさです。

かみ合わせとは?

かみ合わせとは、上下の歯の当たり具合のことをいいます。
単に上下にカチカチとかんだ時だけでなく、顎を前後や左右に動かした時の歯同士の当たり具合も含まれています。さらに歯や顎の上下、前後、左右的な位置も含みますので、非常に繊細で複雑なものです。

かみ合せの不調和のことを「不正咬合」、かみ合せの不調和によって引き起こされる病気のことを、「咬合(こうごう)病」といいます。
色々な症状、病気を起こさせる咬合病ですが、その原因となる不正咬合を意識できる人はほとんどいません。意識より先に身体がその問題を感知し無意識のうちに修正しようとしますから、気がつかないのです。

さらに、かみ合わせとは上下の歯の当たり方のことですから、一見綺麗に並んだ歯でもかみ合わせの悪い方は珍しくありません。それは、歯で髪の毛一本かんでも分かるほどかみ合わせは敏感で、ほんのちょっとの不正咬合でも、咬合病を起こしてしまうことがあるからなのです。

例えて言うなら模様替えで重いタンスを畳の上を引きずって動かしている時、畳のヘリに引っかかっただけでもタンスが動かなくなる状態を頭に描いてみてください。畳のへりのたかだかあの高さで大きなタンスが動かなくなるのです。顎の動きも同じです。意識や頭では分からなくても、体は分かります。

だから体はそこを避けて顎を動かすようになります。
これが後で述べる色々な全身症状を作って行く原因となってしまいます。
かみ合わせが悪いと言うことは決して歯並びの悪い人だけの問題ではないのです。

咬合病の原因とは?

歯科的な病気というと皆さんはどんな病気があると思われますか?
むし歯や歯槽膿漏とおっしゃる方が多いと思います。確かにそれらは以前から、そして現在も大きな部分を占めていますが、場合によってはそれ以上に恐ろしいともいえるのがかみ合わせの不調和で起きる「咬合病」です。

テレビや新聞、週刊誌などで取り上げられるようになって、最近やっと歯やかみ合わせと全身の関係が世間でも知られるようになってきましたので、関心がある方も多いと思いますが、かみ合わせの問題が偏頭痛や肩こり、腰痛などの不快な全身症状の原因の一つとなっているのです。

またかみ合わせの問題は歯の寿命にも関わっています。
あごを動かす時に邪魔になる歯や引っかかりがある歯には強い力がかかるために、その歯に目に見えない微細なヒビが入りむし歯になったり、その強い力が歯を支える骨などの組織への負担となって歯周病(歯槽膿漏)になることがあります。
肩こりで歯を失うことはありませんが、こうした病気は歯の健康と寿命に大きな影響を与える問題です。このお話しは大切なことなのですが、今回のテーマの咬合病と離れますのでご興味のある方は他の小冊子をご覧ください。

ところで、かみ合せの不調和によって引き起こされる病気である咬合病はどうして起きるのでしょうか?これは実にさまざまな原因があって一口にこうだということはできないのですが、代表的なものは次のような場合です。

① 事故やケガで歯や顎、顎の関節が歪んでしまった場合
事故やケガで歯や顎、顎の関節に歪みがでると、そこに植わっている歯の位置が狂うのはお分かりいただけることと思います。歯の位置が狂うと当然そのかみ合わせが狂い、咬合病の原因となってしまいます。

② 背骨や腰などの骨格に何らかの原因で歪みが生じた場合
背骨や腰、足などの人体を支えている骨格が歪んでしまうと、二足歩行の動物である人間はうまくバランスがとれなくなってしまいます。
これを無意識に身体が補正しバランスを保つために、他の骨格を歪めてしまうのです。
顎の力を抜いて、頭を傾けてみてください。顎がズレてくるのが分かると思います。こうして顎がズレると、歯の位置もズレ、当然かみ合わせがズレて狂ってきます。これもまた咬合病の原因となっていきます。

③ 歯が生えてこなかったり、変な場所に生えてしまった場合
歯が生えてこない場合はその場所の前後の歯がその隙間を埋めるように傾いてくることが多く、他の歯の位置がズレてきますので、かみ合わせが悪くなります。
変な場所に歯が生えてしまうと言うことは、その歯が本来生える場所に空間がないことが多く、その前後両隣の歯の位置がズレてかみ合わせが悪いか、変な場所に生えた歯自身が他の歯と変なかみ合わせを作ってしまいます。この変なかみ合わせや悪いかみ合わせが、咬合病の原因になります。

④ 顎と歯の大きさが不釣合いな場合
顎が歯より大きい場合は、歯と歯の間に隙間ができて歯はどこにでもズレて動き、しっかりしたかみ合わせができなかったりします。逆に顎が歯より小さい場合は、歯の生えるスペースが十分なく、歯が本来の位置に生えることができません。こうしてかみ合わせが悪くなり、咬合病の原因となります。

⑤ 上下の顎の大きさや位置がずれている場合
歯は顎に植わっていますので、その顎自体の上下の大きさや位置がズレていると、上下の歯の関係もズレていいかみ合わせができなくなり、咬合病の原因となってしまいます。

⑥ 歯科治療で治した人工の歯がうまくかみ合っていない場合
本来の歯より出っ張った人工の歯は、丁度手の中指のように一番長い歯になります。
当然一番先にぶつかり、かみ合わせが悪くなってしまいます。
また本来の歯より引っ込んだ人工の歯は、その歯のかみ合いの相手の歯が伸びだしてきて顎を前後左右に動かした時、悪いかみ合わせとなってしまいます。
入れ歯にもこの原因は当てはまりますので要注意です。

⑦ 歯を失った後、そのまま放置しておいた場合
歯を失うと人の身体は、その機能を補おうとして失った歯の前後両隣の歯が傾いたり、失った歯のかみ合いの相手の歯が伸びだしてきて悪いかみ合わせとなってしまいます。
こうして咬合病の原因となっていきます。
この歯の位置の移動は、年齢に関係なく起きますので、要注意です。
また⑥と⑦は日常よく目にするものですし、意識によって回避できる原因ですので気をつけて頂きたいと思います。

⑧ 心の問題がある場合

⑧「心」の問題については後で触れますので除外して考えますと、共通するのは原因が何であれ、かみ合わせに狂いがでたことです。

どうしてかみ合わせが全身症状の原因になるの?

ではどうしてかみ合わせに狂いがでると咬合病になるのでしょうか。
それはかみ合わせに問題がある人はいつも歯にイヤな当たりがあって強い力がかかるので、身体は「このままじゃ歯が壊れる」「これでは歯を支えている骨や歯肉がもたない」と無意識のうちに脳は顎をズラしてその当たりを避け歯をかばおうとします。

歯は固いものでもガリガリかめる位非常に固いのですが、指でそっと触っても触ったことを感じるでしょう?それ位歯は敏感にイヤな当たりを感知します。
ちょうど歯が痛い時に無意識に顎をずらしてその歯に物が当たらないように食事をするのと同じです。
これで歯に対する負担は回避できたのですが、そのイヤな当たりを避けるために使われる特定の筋肉が一時だけの運動でなく、四六時中働かされるのですからたまったものではありません。いつもその筋肉がこっている状態になります。

詳しく言うと、筋肉の緊張には筋肉を伸び縮みさせる緊張と、一定の場所に動かないように維持させる緊張がありますが、後者の緊張の方が筋肉の疲労は激しいのです。筋肉が伸び縮みする場合は伸びた時に筋肉の緊張が一時中断し血液が筋肉に一時通います。
また筋肉が動くことがポンプ作用になって血液を循環させる作用にもなります。
ところが筋肉の緊張状態が維持されると、その血流が悪くなり筋肉が貧血状態を起こして筋肉に疲労物質が溜まるのです。
試しに足の屈伸運動と足を曲げたままその姿勢を維持する運動をしてみてください。
一見屈伸運動の方が大変そうですが、維持するのって大変ですよね。
こうして不自然で無理な顎の動きをさせる筋肉、さらにその筋肉の動きを支えている周辺の筋肉が疲労して偏頭痛などの頭痛や、後頭痛、首や肩のこりとなってきます。

これだけでも十分つらい思いをしなくてはならないのに、咬合病の怖いところはまだ悪い先があるのです。顎の力を抜いて頭を傾けてみてください。
頭を傾けた側の上下の歯のかみ合わせが変わったのがお分かりになりましたか?
現象的にこれと逆のことが起きて、不正咬合で頭が傾いてくると、頭の重さはスイカほどありますから、背骨の重心軸から頭が外れて体全体のバランスが崩れることになります。

これを想像するのに人体の骨格を頭に描いてみてください。昔、小中学校の理科の教室にあった人骨標本は沢山の骨を紐で結んで頭からぶら下げてありましたね。
しかし生きている人間は頭でぶら下がっているのではなく、逆に足の上に腰、その上に背骨、頭と言う風にたくさんの骨がバランスをとって積み上がっています。子供の頃、積み木を崩れないように高く積み上げて行ったあのバランスと同じです。

私たちの身体は非常に高度にバランスがとれた言わば寄せ木細工のようなものなのです。
その内の一つでもバランスが崩れては体全体としてのバランスが保てなくなり、二足歩行の動物である人間はまともに立っていられません。
これは大変と、人の身体は無意識にバランスを補正しようとするために、首や肩、背骨や腰、脚などの骨格をあっちこっちへ曲げて全体のバランスを何とか回復するのです。片手で重い荷物を持つ時に、体や頭を重い荷物の反対側に傾けて2本足でバランスを取る姿を想像すれば分かりやすいでしょう。

こうしてほんの小さな不正咬合が顎の歪み、やがては首、肩、足腰にまで及び、私たちの姿勢を徐々に変形させて全身の歪みへとつながります。そして歪みれのひどい場所や弱い場所が、曲がった部分の骨の関節に圧迫が生じて痛みとなったり、無理な姿勢を維持する筋肉の症状などが出てきます。
時には歪んで圧迫された臓器に障害が及ぶこともあります。
これがかみ合わせの不調和で体に症状が出る理由です。

かみ合わせと咬合病

特定のかみ合わせには、特有の表情や姿勢があります。かみ合わせのことを深く勉強していくと、この表情や姿勢を見ただけで、その人が悩まされている全身症状が分かることがあるほどなのです。

ここで仮にあなたの靴の片方のかかとが取れてしまったと考えてみてください。左右の足の高さのバランスが崩れて歩きにくいのですがそのまま歩いていると、まずかかとが痛くなることは誰にでも分かります。それでも我慢して歩き続けていると、どうなるでしょう?
足全体が痛くなりやがて膝や腰まで痛くなりますよね。この靴のかかとを歯に置き換えてみると、かみ合わせが不快な全身症状の原因になることがよくお分かり頂けることと思います。

最初は一箇所のかみ合せの問題でも、まず左右の歪みは顎のねじれになり、さらに顔のねじれに発展し、往々にして頭も傾斜します。そして時間と共に全身の歪みとなってしまうことは珍しいことではありません。

色々な歪みがあってもその人の許容範囲内に納まっている内は大した症状も無いのですが、年齢と共に許容範囲が狭くなったり別の何かが引き金を引くと症状がその人の弱い所などに出てきます。
顎関節症、偏頭痛、首のこり、肩こり、背中の痛み、腰痛などはその代表的な症状です。

かみ合わせの悪さが原因となって出る症状はそればかりではありません。かみ合わせを治療したら生理不順や高血圧が治った、さらにはかみ合わせを調整した総入れ歯でボケの症状まで改善したという報告もあるのです。

逆に言えば、それだけかみ合わせの調整は怖いということで、治すことができるということは、壊すこともできることですから慎重にしなければなりません。
東洋医学では背骨の歪みは万病の元と言われ、知らぬ間に病気の階段を一歩一歩登っていることになります。考えれば恐ろしいことですね。

生まれながらに手や足の長さが極端に違ったり背骨が曲がっている人は少ないのですが、出生後歯を悪くして放って置いたなどの理由で口の中にひどい歪みがある人はたくさんいらっしゃいます。
整体やマッサージ、カイロに行って一時的に治ったり楽になっても、何日かするとまた痛みが出てくる場合は要注意です。
お体に症状があるが特にこれと言った病気でもない。お医者さんに行っても対症療法的な対応しかないのであれば、かみ合わせとの関係を疑ってみるのも良いと思います。

症状や歪みの場所だけの対症療法ではその場だけしか効果がなく、その歪みや症状がお口から来ているものであれば歯科で解決するしか方法はないのです。
入れ歯にはかみ合わせの問題がないと思っている方がおられますが事実は全く逆です。
一本一本歯を失って行く間にかみ合わせが段々ズレて、長い歳月の間にかなりズレてしまっている方が多いのが現状です。これは入れ歯自身のかみ合わせのこともあり、入れ歯が乗っかっている顎のズレのこともあります。

私の父は上下総入れ歯なので、本人はかみ合わせとは無縁だと思っていましたし、長年の偏頭偏頭痛の原因がまさか入れ歯とかみ合わせにあるとは思っていませんでした。
痛み止めを毎日のように服用していたのが、入れ歯の治療後嘘のようにピタリと止みました。
父も喜んでくれていますが、生きている内に私の最も得意とする事で一つ親孝行ができたと喜んでいます。入れ歯だからと安心は禁物です。

転がり始める前の石は軽い力で止められますが、一度転がり始めると加速度がついて簡単には止められません。これと同様に、歪みや症状、病気も初期の内は治療への動機が少ない反面、治療効果も治療期間、それにかかる費用も少なくて済みます。早めの治療をお薦めします。

咬合病と症状

歯のかみ合わせによってむし歯や歯周病(歯槽膿漏)、あごの病気である顎関節症になるケースがあることは前にお話ししました。その意味ではこうした歯科の病気も咬合病の症状の一つでもあります。今回はかみ合わせと全身と関わりのある咬合病がテーマなのでその件に関してはここでは詳しく述べませんが、快適な生活を語る上で避けて通れない問題ですのでご興味のおありの方は他の小冊子などをご参照ください。

咬合病が原因と考えられる症状は何十とありますが、代表的なものは偏頭痛などの頭痛、後頭痛、肩こり、背中の痛み、顎関節の障害、腰痛、ギックリ腰などが考えられています。
ただ、現時点ではこれらの諸症状の原因が不正咬合である、または原因の一部となっていると言うことは実証されていません。

しかし、テレビなどの特集番組をご覧になってご存知の方も多いと思いますが、不正咬合の治療でこのような諸症状が治ったという事例はかみ合わせの治療をしている医療機関の現場でたくさん確かめられています。私自身もそういった臨床例をたくさん見てきました。近い将来、科学的に証明される日が来ると思っています。

かみ合わせ治療で治る確率の高い病気は、基本的には難病よりも不定愁訴、特に何度も痛みを繰り返す慢性疾患や身体の歪みから派生する慢性疾患が治る確率が高いようです。
ここでお断りしておきたいのは、どんな病気でも歯科的治療で治るわけではないということです。かみ合わせは色々な病気の原因になりえても、色々な病気の原因がかみ合わせであるとは限らないのです。

まず対象とする専門の診療科で診てもらい、原因が特定できなかったり、対症療法的な治療しか望めない場合は歯科にかかる方が良いと思います。ただの頭痛だと思っていたら、腫瘍だったということもありますので要注意です。
また誤解の無いようにお願いしたいのは全身の症状を緩和することが歯科医の本来の仕事ではありませんし、それのみを目的としておりません。
入れ歯や歯、顎などのお口にとって快適で長持ちする方向に治療を進めると、その結果副産物として症状が緩和されることがあると考えています。

咬合病は後でお話しする「心」の問題との関係も深く、治療結果も一様ではありません。同じようなお口をした人でも、咬合病になる人とならない人がいるように、同じ治療でも治る人とそうでない人もいます。
また一般的な歯の治療でも同じですが、治療は一度手をつければ振り出しに戻る訳にはいかないものです。これらのことを十分ご理解の上治療に望んでいただきたいと思います。

かみ合わせ治療はどうするの?

かみ合せの不調和と言っても、歯だけに問題があることもあれば、顎にまで問題があることもあります。
その程度によって色々な治療方法があり、出っ張ってかみ合わせの邪魔をしている歯の一部をちょっとだけ削る簡単な調整もあれば、お口全体を修正して新たなかみ合わせを作っていかざるを得ないこともあります。
矯正治療で歯並びを変える方法、時には仮の歯や仮の入れ歯を作りかみ合わせの試行錯誤をしたり、マウスピースのような装置で顎を治すこともあります。

治療方法は人によってまったく違いますので、一口にこうだとは言えないのですが、その方の問題や症状によって、お口と体に聞きながら治療を進めて行きます。

以前ある女性のかみ合わせの治療をしていて治療した翌朝一番に突然お電話がありました。
「普段膝が痛くて、風呂に入る時は足が上げられなくて両手で膝を抱えて浴槽に入っていたけれど、昨晩は嘘のように痛くなく足が上げられました。歯と膝なんて関係ないと思って治療のとき言わなかったけど、関係あるんですね!こんなに楽になってありがとうございます。」と興奮気味にお電話を頂きました。

顎が良い位置に行くと肩凝りや腰痛などの症状が楽になるのを日常目にしてましたが、興奮された突然のお電話に私の方が驚いてしまいました。それほど嬉かったのだと思います。
医療サイドの人間は沢山のひどい病気などを見ていると、頭痛や肩凝りなどの症状は命に影響がなくて軽く考えてしまいがちです。
でも周りを見渡して見ると、大勢の人がこのような症状に困っていらっしゃることに気がつきます。

G・バーナード・ショーは七十歳まで毎月のように一昼夜続く激しい頭痛に悩まされていたそうです。
有名な北極探検家ナンセンの北極点到達を祝うパーティーで彼はナンセンに頭痛の治療方法は発見したかとたずねた。
「いいえ」とナンセンは驚いた様な顔をして答えた。
「いや、そいつは驚いた。あなたは北極を発見しょうとして一生涯をかけた。
そんなことは誰もまるで気にしていないのに。ところが頭痛の治療方法を発見しょうとしなかった。
そんな暇があったらこの頭痛を止める方法を考えてくれ。」と言った笑い話があります。頭痛をお持ちの方には笑えない話ですね。

私と咬合病

冒頭でも述べましたが咬合病に興味を持ったのも、(いや持たざるを得なかったと言った方がよいでしょう)自分の顎の病気が理由でした。
発病当時は診療にも実生活にも良く言えば一生懸命、悪く言えばこだわって没頭してしまう性格が、自分を窮屈にしていた時期でもありました。
その性格や感情が、人が休んでいる時もがんばり、体がつらくても耐え、胃薬を飲みながら忙しく動き回らせていた事は後になって分かりました。

少しでもいい治療をしようとすると手間がかかります。
保険治療を中心にこれをやろうとすると、お一人に時間を十分割けない状態の中では短時間に効率よく治療をしなくてはなりません。まるで一秒を惜しむかのごとく忙しく、汲々としていたのでした。
そのために自分だけでなく、今から思うと本当に申し訳ないのですが、スタッフにも厳しく、窮屈な思いをさせていました。
患者さまからは「腕がいいけど怖いと巷の評判です。」と言われ、「こんなにがんばっているのにどうして?」と思っていました。
それでも当時は時間も手間も材料も限られた中のことですから、その現状にまだ不満があったのです。

「自分が患者さんの立場ならこうして欲しいと思うことをやりたい!」この思いを実現できるのは、保険治療中心から外れることですが、「金儲け主義の歯医者と思われないか」、「高い、安い、だけで判断されないか」「離れていく患者さんがでるだろう」と迷いは尽きず、どうにかできないかと数年間考えていたものの結論を出せないでおりました。
経済的に医院として成り立たなくなる恐れとその願望の狭間で、その間を揺れ続けていたのです。
揺れながらも当時は「人生とはこんなもの」と半分は思いながら、相も変らぬ忙しい日々を送っていたのでした。
くいしばった人生だったのです。そしてその結果が顎の病気でした。
たまたま顎に出たのであって、病気は胃でも他の臓器でもありえたのかも知れません。
確かに顎の病気を引き起こすかみ合わせでもあったのですが、発病させてしまう自分がそこにあったのです。

そんな時、自分や家族は保険の枠内にとらわれないしっかりとした治療をしている事実にはっとしました。
医学的なことは言うに及ばず、日常臨床で5年後、10年後と経過を追うと分かるのですが、その違いを知って自分や家族の健康を守るためにそうしている。
本当は自分自身の問題なのに、周囲の目を気にし、分かりもしない先のことを考え、自分の思いを押さえつけて、さらに精神的、肉体的にくたくたになっている。
それらに気づかされた時、忙しく、身体に鞭打って、くいしばった人生と決別しようと、同時に歯科医としてたった一度の人生、自分が正しいと思う方針に変える決心をしました。

医院をつぶしてしまえば家族や今まで私を支持してくださった患者さんに申し訳がないが、最悪の場合、十数年積み重ねてきた実績を捨て、医院を閉める覚悟で始めました。
そうして患者様お一人の予約時間もそれまでの2倍3倍と余裕を持ち、じっくりとお話しや治療に専念する環境ができてくると、気持ちに自然と余裕が生まれ、心身ともに充実感を味わえるようになってきたのです。

こうして「心」に余裕ができ、かみ合わせを治してから顎の調子も持病の腰痛も調子はよいのですが、それでも時折波があるのです。もうかみ合わせに問題がある訳でもないのにどうしてだろうと思いました。
くいしばった人生と決別しましたし、形あるかみ合わせも変わったので調子はいいのですがどうしてなのでしょう。
そんな時、こだわりとがんばってしまう性格がまだ残っており、そうした性格を使った時は症状がでることに気がついたのです。

こうして「心と身体が深くかかわっている」このことを実感して以来、私は咬合病にその人の心の問題がいかに絡んでいるのかを臨床で確かめていくようになりました。

心と咬合病

同じような不正咬合があっても、咬合病の症状が出る人と出ない人がいます。
そしてその症状の重さも人によって異なります。
また、比較的簡単に治せる人と、どんなにがんばっても治せない人がいます。
いったいどうしてこの違いが人によって生まれるのでしょうか?

パッとお顔を見ただけで顔に歪みがあり、不正咬合もあると分かる位の人でも、一切の心身の不調も症状もない人もいらっしゃいます。その方とお話すると例外なく明るい肯定的な人です。
私自身の体験と同様に、咬合病の有無や症状の程度には、その人の「体質」「年齢」「ストレス」「性格」という四つの要素が深くかかわってくるのです。
特にストレスと性格が大きく影響し、心が明るく軽いほど症状も軽く、逆に心が暗く重いほど症状も重くなり、「心」が人によって大きな違いを生んでいるのです。

病気や症状はその人が今まで積み重ねてきたことの結果でしかないのですから、薬を飲んで症状を一時紛らわせるような対症療法はできても、その原因を変えないで症状だけ取ることはできません。
形あるものを変えることはできても、性格や感情などの「心」は形がなく、自分本人ですら難しいものを第三者が容易に変化させられるものではないのです。

このことが咬合病を非常に難しくしていて、本当は原因が心にあるのにそれを変えないで第三者である歯科医にどんな咬合病でも治してもらえると思い込んだり、咬合病の治療で何でも治ると勘違いされる人まで出てくることになってしまいます。
「心」の問題は何も咬合病だけに限ったことではありません。形は変わっても入れ歯や他の治療でも同じです。
歯科医は患者様にもっと楽になる道があることを示し、その道を行く手助けをしてあげることしかできません。
人生を裏で支えている身体に感謝し、「心」にはたと手を当ててみて、「病気を治してもらおう」でなく自ら「治そう」と決心することが必要なのです。

こんなことから、現在の私の方針は「身体と心の歪みが少なくて、訴えている諸症状の主原因が不正咬合にあり、治そうとハッキリとした意思を持っている患者様のみ治療させていただこう」としています。
「治せるのはあなただけだ」ということを忘れないで頂きたいと思います。

人と咬合病

私の医院に往復6時間もかけて電車を乗り継いだり、高速道路を車に乗って、中には地方から遠路お越し下さる方がいらっしゃいます。それだけの犠牲を払ってまでお越しくださることは本当にうれしいことなのですが,途中の多くの歯科医院を通り過ぎざるを得ない症例の難しさがあることが大半です。

難しさにはお口の中の難しさと人の難しさがあります。前者はお互いの根気と努力があれば何とか解決できることが多いのですが、後者は先が読めません。
十人十色と申しますが、夫婦でも人それぞれにたどって来られた道が違い人生観や価値観、そして性格も違います。前にも述べさせて頂きましたが、それらの感情や感じ方、すなわち「心」がご自分の体を支配します。

感情と肉体が関連しているなどと言うと、信じられないかもしれませんね。
しかし人は興奮すると血圧が上がったり、神経質な人は胃腸が弱い傾向にあったりします。楽しむことやスポーツなどの快い刺激を脳が受けるとモルヒネと同じ働きをするベータ・エンドルフィンが分泌されて快感を人は感じ、意欲や創造性などに関わる脳の前頭連合野を刺激します。
このように感情や心は体を変化させる力を持っています。

こうした楽しみの心を多く持っていらっしゃる方の難しい症例に出会った記憶がありません。しかしこの心を問題があると治療は進まず結果が芳しくないことが一般的です。 その理由は心は医科の領域であり歯科での対応に限界があるからです。

治せる咬合病と治せない咬合病1

例えば、自分の中に向き合いたくない嫌な問題から逃避するためにお酒に溺れている人が肝硬変になったとします。
その人は結果である症状だけ取って欲しいとおっしゃいます。
本人はただ症状がつらくて楽になりたいだけで、本質的な問題と向き合いたくないので意識の表面や口では治したいと言いながら、残念ながら潜在的に病気までは治すつもりはないのです。
肝硬変になってもお酒を飲み続けなければならない事情を持った人を医学的に治すことはできません。

またこう言う場合もあります。家族のため、自分のためにがんばって、くいしばって一生懸命人生を生きてきました。
笑っている時は口を開けていますが、口を開けて重い物を持てないようにがんばったりくいしばっている時はかみしめています。以前より若さのなくなった顎や歯と歯ぐきにはそれが大きな負担になっています。
入れ歯も具合が悪くなります。

身体は昔通りとはいかず無理が段々つらくなってきています。
残念ながら現代医学には若さを取り戻す手段はありません。魔法はないのです。
現在の状態は過去のご自分の行動の結果であり、今までの生き方や価値観などを全く変えないでくいしばって生きている人の歯や入れ歯が痛むのを歯科的側面だけで治療するには限界があります。
太く短くより細く長く歯と付き合われたいのなら、ここでちょっとアクセルを緩めてみられてはいかがでしょうか。

性格的におおらかで顎や体に歪みのない方がいる一方で大きな歪みを持った方がいます。前者の治療はスムーズに進み結果も比較的満足できるでしょうが、後者は往々にして困難です。後者はたくさんの歯科医院を転々とされる方によく見られます。考え方や価値観など歪ませた悪くした原因を脇に置いておいて、結果だけ歯科医院に改善することを求めているからです。
歯科医は治るお膳立てをしたり、治る方向に導いてあげることはできても、治るか治らないかの鍵はその方ご自身が握っていることなのです。

治せる咬合病と治せない咬合病2

噛み合わせの問題だけでなく入れ歯など歯科治療全般において、患者さんと医療サイドの認識の違いが大きすぎる場合は治療自体が芳しくなくなります。患者さんからすれば簡単に見えることが、実は大変難しくリスクを伴う内容であることが往々にしてあります。

お互いの知識と経験の違い、また歯や治療の価値観の違いがあるためご説明にも限界があり、同じ状況を頭の中で描くことは到底無理でしょう。その結果感じる危機感や重要性、先々の問題などが十分伝わらず、患者さんは今の症状やお困りを取り除くことだけ、また治療に要する時間や費用を歯の将来より優先されることが時折起こります。

今までの生活を陰で支えてくれた親から頂いた歯に感謝がなく、歯以外の事柄を優先されるとそれ以上歯科医は何も言えなくなってしまします。また治療で良くなった事は見ないで、悪い事を探して不満ばかり言う人もいらっしゃいます。共通することは、対象が噛み合わせ、入れ歯、歯、治療、何であれ基本的に感謝のないことです。

一見歯や入れ歯の形あるもののお困りに見えて、実は感情や性格的なことが治療の大きな妨げや、それが原因で治療にならないことがあるのです。
形ある「かみ合わせや入れ歯」は歯科医に治せても、形ない「心」は治せないのが「心」の問題が大きくある人の咬合病や入れ歯を治せない理由です。

病気とは今までの生き様の結果である。
他人によって病気は基本的に治らぬと心得よ。
医者や薬は手助けするのみであり、自らを変え、感謝の気持を持って望めば、病気は自然と退散する。

読み人知らず

健康で楽しく明るい人生に!

噛むこと、食べることは生きることと同義語です。そして美味しく楽しいことです。それが1日3回、1年365日、毎日やってくるのですから人生でどれだけの喜びを運んでくれることでしょうか。
ところが一転して噛むことや食べることに不満があると、真逆の大きなつらさが生まれます。

人の歯の噛み合わせは非常に敏感で、髪の毛1本でも感知します。ちょっとした歯の異変を不具合として感じてしまいます。ミリ単位でなくミクロン単位です。人工の歯の作製一つとっても簡単なものではないのです。さらにお口全体の噛み合わせとなると、個人差が激しく固定的なゴールなど存在しません。

こうしたお互いに大変な領域に踏み込まないことが最も大切です。
そのためには今ある歯を守り維持していくことが重要になってきます。

■  毎日のお手入れで病気の予防をしていますか?
攻撃に勝る防御はないと言いますが、病気を治すより病気にならないことが一番です。
私たち歯科医の治療は全く元の状態に戻すのではなく、修理をして使えるようにしているに過ぎないことを考えると、予防は最高の治療と言えます。

 ■ 定期的に歯の検診を受けていらっしゃいますか?
被害が小さければ原状に近いレベルにまで回復が可能でも、被害が大きくなると低いレベルまでしか治療で回復できないことをご存知でしょうか。歯科治療は元通りに戻すことは不可能で、修理しかできないからです。大がかりな修理は機能的、審美的な面でも劣ります。そして何度も修理を重ねると最後には使い物にならなくなり、その歯は寿命を終えることになります。
早期に問題点を発見して小さな被害に抑え、最小限の治療を行うために定期的な歯科検診が大変重要なのです。小さな問題で発見できるため、歯のダメージが小さく、時間的、経済的負担も小さくなります。

■  悪いところは早めにきちんと最後まで治していらっしゃいますか?
歯のことより仕事や家庭、時間を優先して簡単なその場しのぎ的な対応でよしとしていませんか?
痛みなどつらい症状がなくなったからといって治療を途中で中断していませんか?
親から貰った歯をなくしてもまだ噛めるからと、後回しにしていませんか?

詳しいご説明はそれぞれのページを参照いただくとして、そう遠くない将来にこの判断の間違いにお気づきになられると思います。失敗を体験して実感を得るより、人生の先輩方の教訓に耳を傾けられて楽しい食生活と老後をお送りいただけることを祈っております。

高岡歯科医院院長 高岡周一