インプラントと骨

あごの骨が少ない場合はインプラントができない?

軟かい歯肉に支えられている入れ歯とは違って、インプラントは歯と同じように骨に支えられているために硬い物でも噛むことができます。
そのためインプラントを支える骨の量が多ければ支えが万全で、骨の量がインプラントの寿命や丈夫さに関わってくることになります。 骨の幅が広ければ太いインプラントが入れられ、骨の長さが長ければ長いインプラントが入れられます。
インプラントが太いことや長いことはインプラント表面と骨の接触する面積が広くなって骨との接合力が強くなるためインプラントが丈夫で長持ちすることが多いのです。 

このように骨がしっかりと残っている場合はいいのですが、歯を失った理由や歯を失って年月が経過している場合に骨がやせ細っていることがよくあります。
インプラントは支えられる骨のある場所にしか入れることができませんので、骨のやせ・量的減少はインプラントを入れられるかどうか、入れられても丈夫かどうかに大きく関わってきます。 

またインプラントを入れる場所の骨に制約があることもあります。
一見骨のように見えていても骨がない場所があったり、骨の中に神経や血管が通っていてインプラントをその手前までしか入れられないことがあるのです。
代表的な場所は上あごの奥歯があった場所の上にある上顎洞と呼ばれる骨のない空洞や、下あごの奥歯があった場所の神経・血管が通る下歯槽管などです。 
欧米人に比べて日本人はただでさえ骨がきゃしゃでこうした制約までの骨の距離が短いのに、さらに歯を失って骨が痩せてしまうとインプラントに制限が出てきてしまいます。

骨を再建する新しい治療

病気や怪我、あるいは老化などにより骨の一部が欠ける、穴が開く、痩せるなどが起こることで、日常生活に支障が出ることがあります。 またむし歯をあごの骨が溶けるまで放っておいた場合や、歯周病を末期まで放置しておいた場合などでも骨の喪失は起こります。

骨の喪失による日常生活の支障とは、例えば歯科・口腔外科領域では、歯を支える周囲の骨や顎の骨を喪失することで、噛めなくなる、発音が正しくできなくなるなどの障害が挙げられます。 また入れ歯を支えるあごの骨が痩せると噛む力を十分に支えられないことや、入れ歯の安定が悪くなって、どちらにしても噛めない、入れ歯が当たって痛いなどの不満が多くあります。

そして歯のインプラント治療を行う際には、歯を支える骨(歯槽骨)の再建が必要になる場合もあります。 もちろんご自分の歯がびくともしないのは健全な骨にしっかり植わっているからです。 歯を支える骨の量が減れば棒倒しゲームのように歯がぐらつき、硬いものが噛めない、噛むと痛いなどの症状を経て最後には歯が抜けてきてしまいます。

歯も親からいただいた大切な財産ですが、骨も同じなのです。そして一度失ったものは二度と返ってこない、それが自然の原則です。原則と申したのには訳があり、自分の骨は原則的には再生や取り戻しはできませんが、骨の再建(自分の骨や人工的なものを使って失った自分の骨の代用をする)ことが 近年できるようになってきました。全ての症例では無理ですが、条件さえ整えば可能になってきています。

失った骨を再建する治療法としては、患者自身の健常な骨を他の場所から採取して移植する「自家骨移植」があります。現在はこの「自家骨移植」が最も信頼性の高い治療法といわれていますが、入院治療が必要となることに加えて、骨の採取部に傷や痛みが残る場合があります。 また多量に骨を喪失した場合には、その分大きな骨を体の一部から取ってこなくてはなりません。

こうしたことから、どのような理由により、どの程度の骨が必要かによって変わってきますが、日常臨床ではあまり多くは実施されていないのが実情です。 そのためインプラント治療などの小規模な骨の再建では人工的なものを足場にして自分の骨の増殖を促す方法が一般的に多く取られています。

骨を再建してインプラントを可能にする方法

先にお話ししたように骨の量はインプラントに大きな影響をもたらします。そのため以前はインプラントが受けたくても受けられない方が大勢いらっしゃいました。ところが近年骨を増やす手術法や材料が開発され、おかげで多くの方々がインプラントを受けられるようになっています。
いろいろな方法がありますが、その代表的な治療法がGBR(図の矢印)、リッジエキスパンション、ソケットリフト、サイナスリフト(ラテラルアプローチ)などです。

骨の修復は骨の表面から起こります。骨折した場合には骨同志の距離が短い方が早く骨と骨がくっつくため、ずれた骨同志をできるだけ元の位置に戻して、さらに骨がまたずれて行かないようにギブスなどで固定します。
骨折の原理からすれば骨のすぐ横に骨があれば有利なのですが、歯を抜いて大きな穴が開いた場所は歯を支えていた骨の横は空洞になり、大きな穴では向こう岸の骨が遠く離れているために骨が十分に修復せず骨が痩せてしまいます。

インプラントは歯と同様に十分な骨に支えられていることが必要です。その骨の痩せを防止するために歯を抜くのと同時に大きな穴の中に骨の成分に近い人工的な材料(骨補填材)を入れる方法があります。それにより骨と骨補填材の距離が短くなって骨と骨補填材が早くくっつき、またくっついた骨補填材と隣の骨補填材との距離が短いためにさらに骨が加速的に修復できるのです。
これがソケットプリザベイションと呼ばれる治療法です。 

この他にも幅の狭い骨に刻みを入れて押し広げて骨の幅を広くして中に骨補填材やインプラントを入れるのがリッジエキスパンション、上顎の奥歯の上に上顎洞(サイナス)と呼ばれる空洞があるために骨の高さが足りない症例で空洞の中に骨補填材を入れて骨の量(高さ)を増やす治療をソケットリフトやサイナスリフトと呼んでいます。 
こうした治療法がなかった時代には入れることができなかったインプラントが技術の進歩によって現在は治療可能になっています。

骨を増やす技術の進歩はありがたいことですが、それよりもっとありがたいのは骨を痩せさせないことです。 歯を抜いてかなりの期間が経って骨が痩せてしまってからお越しになられる方がいらっしゃいますが、本来は歯を失うことが確実となった時点で失った後どうするのかを考えた上で歯をお抜きになられることをお勧めします。 

場当たり的な発想でなく、事前にしっかりとゴールを決めてから動き始めることが大切だと考えています。事前の計画があれば、
いつ歯を抜いて、歯を抜いた時にしか受けられないソケットプリザベイションと呼ばれる骨の痩せを軽減する治療をするのかしないのか、
骨の回復と骨の痩せの相反するどのポイントでインプラントを入れるのが最も有利なのか?
それとも歯を抜く時に一緒にインプラントを入れる方がいいのか?
歯がなくなった後仮の歯が必要なのか?
それはどのくらいの期間使う必要があるのか?
いやインプラントでなく入れ歯やブリッジの方が適応症なのか?
などなど考えることはいくつもありますので最も有利なものやタイミングを選ぶことができます。 
事前に担当医とよくご相談されることをお勧めいたします。