入れ歯と歩む、豊かな人生

テレビのコマーシャルに多額の費用をかけて1個700円ほどの入れ歯安定剤を販売しても、企業の利益になるほどマーケットが大きいのです。それぐらい入れ歯でお悩みの方が大勢いらっしゃいます。
歯という財産を失っただけでなく、不自由で具合の悪い入れ歯を我慢して使い続けなくてはいけないのでしょうか。 こうした毎日が楽しく豊かな人生といえるのでしょうか。

他の参考ページ
<<総入れ歯でもここまでできる>>
<<入れ歯が痛い・合わない >>
<<入れ歯・総合ページ>>
<<今までと違う種類の入れ歯があることをご存知でしょうか?能力も装着感も全く違います >>
<< 部分入れ歯の症例>>
<< 入れ歯のウソとホント、疑問Q&A>

噛むことの効用 

噛む行為がアルツハイマー型認知症など認知症と関連しているとの報告があります。事実老人病院での歯科治療や入れ歯の作製により痴呆が軽くなったり、寝たきりの人が歩き自立を始めた報告も歯科や医科からも出てきています。
看護師の方や介護の現場の方から自分の歯で噛める人は元気だと直接伺ったことが何度かあり、噛むことは単に栄養を取ることだけではない、人が人として生きて行く上に重要な行為であることを知らされます。

また、かむ機能の回復は「食文化の回復」でもあります。
人間にとっての「食」は成長発育、生命維持、健康保持の「生」の部分だけでなく、人間らしく保つ文化的、社会的部分があります。食卓を囲んでの談笑や、外交交渉で晩餐会を開く理由の一つです。

ところが噛む能力が劣ると、家族との食事、宴席や外食などで他の人との食事で同じものが食べられないなどの社会共同生活上の問題が出てきます。
歯を失くしてしまったとしてもよく噛める入れ歯で補い、周りの人々との楽しい食生活を取り戻し、噛めることだけでなく心の健康を取り戻すことも可能です。

「おいしい!」は長寿の秘訣

百寿者と呼ばれる100歳以上の長寿者に共通するのは、よく食べ、明るいことだそうです。お腹いっぱい食べたその何時間か後にはまたお腹が空いてきます。その都度食べる食事がおいしいと感じられれば、人生でどれだけの幸せの蓄積があることか計り知れません。こうした幸福感は快楽の一種です。

その感情が長寿と健康にいい影響を与えることがわかってきています。
感情と肉体は関連しているのです。
毎日の食事、おいしくいただけていますか?

人生が長くなった

昭和20年代と申しますから、ほんの少し前までは平均寿命が50年でした。当時は食べる物にも困り、国民は生きるのに一生懸命でした。その後すばらしいスピードで復興を遂げ、高度成長期には生活が段々便利になり、物が身の回りに少しずつ増えていきました。

物があることが豊かさの証明となり、当時から少しずつ人生や仕事の目的が「物とお金」に傾斜してきたとする専門家もいます。そうして日本人はどんどん物質的には豊かになってきました。
諸外国から働きバチ、うさぎ小屋と揶揄されながら、飽食の時代と言われて久しくなります。
現在では欲しい物がなくなったとまで言われています。

山本直純さんだったと思いますが、昔テレビで放映された「大きい事はいい事だ!」と言うチョコレートのコマーシャルを覚えていらっしゃいますか?
今でも量が多いことは決して悪い事ではありませんが、あまり見かけなくなりましたね。

そして現在は人生80年の時代、ここ50年で人生が30年長くなり、その分人生も老後も多くなりました。50年前に比べて食べ物や物が足りてきたのだから、精神的、時間的な余裕が生まれるはずなのですが、人間は欲張りですから「量」の時代から現在では「質」の時代に移ってきたようです。

W・H・O(世界保健機構)の健康の定義は、「健康とは病気でないということではない。絶えず自分の仕事に満足感を持ち、その上家庭に憂いがなく、前向きの姿勢で暮らしていけること」となっています。
健康であることと、達者であることは違います。
「どれだけ生きるか」と言う長生きの時代から、「どう生きるか」と言うその人生の質を問う時代になってきたと言っていいでしょう。

極端な例になりますが、病院のベットで体中チューブだらけになって生きる一年間より、健康で楽しい半年間の方が良いと思われる方が増えてこられたような気がするのは私だけでしょうか。
お口の中も「何とか噛める」人生より、「おいしくよく噛め、快適で、綺麗な」人生の方が、質の高い豊かな人生だと思います。

歯に感謝を!

まだオシメをしていた赤ちゃんの時代に最初の乳歯が生えてきます。
本人も記憶がないほど前の話ですが、この歯はお母さんのおっぱいに触れたかも知れません。
そして離乳食をつぶしては飲み込む手伝いをしてきました。
この頃にはこの歯のおかげで身体も随分と大きくなり、お母さんはおんぶが重く感じたことでしょう。
成長と供に歯が生えることで発音もしっかりできるようになります。

続いてこの歯はハイハイからヨチヨチ歩き、桜の下で小学校の入学も見てきました。
この頃になると早い乳歯はそろそろ次の永久歯へとバトンを渡し、短い人生を終えます。
その後順々にバトンを渡して、中学にあがる頃には永久歯が生え揃うことになります。
思春期はこの永久歯と供にありました。
楽しかったこと、イヤだった思い出、どんどん成長して力一杯輝いていた年頃です。
こうして大人への階段をこの歯と一歩一歩手をつないで上がり、就職や結婚、出産など色々な思い出と供に人生を一緒になって支えてくれたのもこの永久歯です。

こんなにお世話になった歯ですが、これらの歯にあなたは「ありがとう」と感謝したことがありますか?
あなたのために食物を噛み砕き、栄養を取って成長し、毎日の生活や人生を支えてくれていた「親からただで貰った」その歯に感謝をしていたでしょうか。
あなたの扱いに今まで文句を言わなかったこの歯が、今になってなぜ痛んだり、苦しませるのか、ついてないなと思ってはいませんか?

親からただで貰ったから大事にしなかったのかもしれませんね。
人は貰った万年筆より自分でお金を出して買った万年筆を大事にします。
今まで大切さに気づくチャンスはなかったのでしょうか。

病気は気づきのチャンス!

病気の発症は病気になる環境を持っていることが原因です。そこを変えなくては根本的に病気と決別することはできません。一時しのぎの治療を受けても長続きしないか、治らないかのどちらかです。
病気はそこに気が付けるまたとないチャンスです。

私は本質的には病気は歯科医が治すものではなく、ご自身が治すものだと思っています。私たちは条件作りなどのお手伝いをしているに過ぎません。
入れ歯の治療も同じです。入れ歯はただ型をとって作って入れるだけと思っておられる方がいらっしゃいますが、それは間違いだと思います。

安く簡単な入れ歯でそこそこ満足できる人は性格的におおらかで顎や体に歪みの少ない人です。
一方で歯を1本、また1本と年月をかけて失う過程でかみ合わせや顎がずれ、ずれたまま入れ歯を何度も入れては合わない、痛いと作り変える方がいらっしゃいます。不具合の問題を入れ歯に求めていらっしゃるためいつまでも納得できる入れ歯に出会うことができません。ずれや歪みを持たない人と持つ人が存在するのです。

その違いはご本人の性格や考え方、歯を後回しにされて治療を適切なタイミングで受けてこられなかったなどの違いです。病気や症状は今までの歯に対する考え方や生活の誤りに気づけるチャンスで、これからは別の楽な道を選ぶ分岐点でもあると思います。

歯はどうしてなくなったの?

ところで、どうして歯を亡くされたのでしょうか。
人に見える場所でもないしたかが歯一本くらいどうってことないとたかをくくっていらしたのでしょうか。
先々を考えず、今困っている所だけを簡単に済ましてこられたのでしょうか。
それとも忙しい、面倒だ、費用が大変と歯を後回しにしてこられたのでしょうか。
その時ちゃんと治療しておけばこんな大きな問題にならなかった・・・と後悔しても後の祭りです。
大切なものの順番を間違われたのかも知れません。

そのつけが今のお口の状態なのに、それでもまだ今度も自分の都合を優先して、その合間に歯を治そうとする人がいらっしゃいます。その人のペースでは歯は治りません。その価値観とそのやり方でこんなになったのですから。歯のペースにその人が合わせて動かないと歯は治らないのです。

病気は本当に大切なものは何か、そして今まで感謝もせずぞんざいに扱ってきたもののありがたさに気付くチャンスです。今までのやり方を変えるチャンスです。
今のこのチャンスを逃すと次はどんな状態でお会いするのか、それが心配です。

人生50年の時代ならいざ知らず、人生80年の時代では残念ながら入れ歯のお世話になることが多いのが現実です。80歳以上になっても20本以上の歯を残しましょうと言う「80・20運動」を当時の厚生省が提唱してから約10年が経ちます。ところが現状は80歳以上の人で残っている自分の歯の平均本数は残念ながら6.2本、80・20が達成できているのはほぼ10人に1人にすぎないそうです。

さらに入れ歯安定材の売上げが何十億円とも言われている事を考えると、かなり多くの人が入れ歯で困っておられることでしょう。「かめず、しゃべれず、笑えず」の「3ず」に悩まされていては、質の高い人生、健やかな高齢人生とは言えないのではないでしょうか。
日本の高度成長を支えてこられた方々のこんな状態はお気の毒でしようがありません。
自分のことを脇に置いておいて家族や会社のために馬車馬のように働いてこられ、歯にまで気も時間も回らなかった結果なのでしょうか。

多少のことは体力でごまかせた年齢と同じように今でも息咳き切って走り続けている人も、これからの人生を支える体に「ありがとう。そしてこれからもよろしくね!」と、たまにはいたわってあげて欲しいと思います。

髪の毛と歯は長いおつきあい

一時テレビのコマーシャルにもありましたが、髪の毛は字の通り長~い友達です。男性ホルモンとの関係でその友達と縁が薄い人もいらっしゃるようですが、ご本人には切実な問題です。抜群の売れ行きを記録したリアップや育毛剤は不況知らずと聞きます。

しかしいよいよその長い友達ともお別れをする時には、最後の手段としてアデランスなどの人工のカツラになるわけです。それにしてもカツラは安い物でも60万円を下らないそうです。
また女性が美容院で美しくなるのに1回1~2万円、年間8回として10年間で80~160万円の出費をしておられるようです。
同じように長く付き合ってきた友達の「歯」とお別れした後に、入れ歯にもそれ位の手間と費用をかけてくだされば・…と思ってしまいます。
さらに若い女性が携帯電話に毎月2万円、年間24万円、10年で240万円も使う時代に、保険の入れ歯は高々数万円、大量生産された子供のおもちゃ並です。

全国的にかなり話題になりましたのでご記憶にあるかもしれませんが、以前NHKで入れ歯の特集がありました。保険の入れ歯では満足な入れ歯を作れないと言うのが趣旨でしたが、残念ながら現在も当時と余り変わっておりません。
これで人生と体、健康を支える入れ歯を作るには無理があると思います。
せめて髪に対するのと同じ位、あなたの歯にも手当てをして頂きたいものです。

お口の中は直接見える所でありませんし、注意が行き届かなかったり、ついつい後に回して来たかもしれません。長年お世話になってきた歯に、ちょっぴり恩返ししたいと思われたなら、歯科医院のドアをたたいてください。

総入れ歯は、豊かな老後の良き伴侶!

人生80年といわれる今日、健康で楽しい老後を過ごすために欠かせないもの…それは「総入れ歯」。ところがこの総入れ歯、せっかく作ったのに「合わないから入れていない」「痛くて入れていられない」「ガタついてすぐとれてしまう」「口元が入れ歯を入れてから老けてしまった」という不満も耳にします。

その原因はさまざまですが、お口や顎の状態を綿密に調べた上で、手間と暇を惜しまなければ、かめて安定した入れ歯はもちろんのこと、口元や表情に若さを取り戻す総入れ歯も作ることができます。

さらに総入れ歯の材質や構造も日々進化しています。
入れ歯特有の異物感や味覚に配慮した入れ歯、一般の人工歯の代わりに用いる奥歯の金属製の歯もあります。これならイカやアワビも食べられます。
「食べる楽しみは過去のこと!」、「これも人生、しようがない!」とあきらめてはいませんか?
入れ歯もあなどれない力を持っているものですよ。

治療方法や材質などは個人個人違うものですから、あなたにとって最適な方法をご一緒に選んでいきましょう。

入れ歯って何でしょう?

まず生後1年足らずの内に乳歯が生えてきます。人生で最初の歯です。
実はこの歯には大変お世話になっていたのです。赤ちゃんから永久歯が生え揃うまでの成長期に、物を噛んでくれて栄養を取り大きく立派な体にしてくれました。
それと同時に噛む事で顎を発達させ、全身と調和の取れた骨格を作ってくれました。
今のあなたの基礎を作った歯でした。

そして6才頃になると永久歯が生え出し、13才頃永久歯が生え揃います。
これが人生で2回目の歯になります。ここまでは神様が用意をしてくれています。
この頃もまだまだ心身ともに大きくなる時期ですが、その後成長期を過ぎれば成長が止まり、成熟を経て段々老化に向かいます。
こんなにお世話になった歯達ですが、永久歯とは言っても残念ながら現実には永久にはもたない方が多く、この後は入れ歯と言う第3の歯を自分で用意しなければなりません。

入れ歯とは何でしょう?
歯が抜けた後に、噛むための代用として使う道具とお考えでしょうか?
確かにその側面は一部ありますが、それだけではありません。
むしろその目的はほんの一部と申し上げた方がいいと思います。

他の大切な役目は、入れ歯を介して顎の関節を維持し、体を支えている骨と同じ働きをする人工的な体の一部と言えます。歯がかみ合わせを作り、それが骨格の一部として姿勢を維持していました。
重いものを持ったり、力を入れる時を考えてください。口を開けてはできませんね。
必ず歯を食いしばっています。
さらに本来歯が生えている位置で歯を介して上顎と下顎が当たり、姿勢が保てています。
その歯がなくなると上下の顎はずれて行き、姿勢が崩れたり、顎を無理に支える筋肉、関節が痛んできたりすることは前に述べました。

東洋医学では姿勢、すなわち背骨の曲がりは万病の元と言います。
感受性の差もありますから人にもよりますが、大なり小なり肩凝りや偏頭痛、首のこり、背中の痛みや凝り、腰痛や膝の痛みなどで重い毎日を過ごしておられる方が多いのが現状です。

まさかこの症状が歯を失ったり、かみ合わが崩れたせいとはほとんどの方が思っていません。
歳のせいだとか、仕事や生活で体のそこを良く使うせいだと思っていらっしゃいます。

入れ歯治療の副産物 

全てが歯を失ったせいとは言いませんが、かなり多くの方はしっかりした入れ歯を入れると症状が無くなったり、軽くなったりします。永年血圧が150を切らなかったおばあちゃんが、入れ歯の治療で120まで下がった経験もあります。

人はいっぺんに歯を失うわけではありませんので、段々歯を失っていく間に前歯が出て歯の間が空いてきたり、顔の形が変わってきた、鼻から唇にかけてしわが深くなった、口元がさびしくなった、かみ合わせが変わってよく噛めなくなってきた、など色んな変化を感じる人が多いと思います。歯を失うと同時に顎の骨も痩せて顎の形も変わってきます。

第3の歯である入れ歯に求められるものは、かむ能力だけでなく本来歯が持っていた役割をこなせるものでなくてはならず、かむに留まらず、体の求める場所で顎を支え、失った骨や歯肉、口元などを取り戻し、姿勢や骨格を修正し、健康に、快適に豊かな人生を送れるものでなくてはならないのです。

本来崩れていないのが本当なら、老化以外は元のままがいいのです。そして長い年月をかけてそこまで崩れていったものを、時間をかけて少しずつ元に戻していく必用があるのです。
治療が終わった時口元や表情が若返り、うっすらとお化粧をして、明るい洋服を着て来院されるようになられたおばあちゃんを見て10才位若返ったように思えることもありました。
肉体だけでなく、気持ちが若々しくなるのは何時までも綺麗でいたい女心なのでしょう。
私の恩師のお母様はお亡くなりになる前に、貧弱な顔を人目にさらしたくないので絶対に死んでも入れ歯を外さないで欲しいとおっしゃったそうです。
男性の私にでも、何となくそのお気持ちが分かるような気がします。

多くの方が入れ歯を「物」と考えておられますが、私はあなたとあなた自身の人生を支える「身体の一部」と思っています。ただかむだけの物ではないことを、お分かり頂けたでしょうか。
「たかが入れ歯」と思われるかもしれませんが、入れ歯も捨てたものではありませんよ。

入れ歯治療はリハビリ

入れ歯の治療は単なる噛む能力の回復だけが目的ではなく、リハビリであると私は考えています。
不幸にも全ての歯を失った人は静的美しさとしての外観、ならびに動的美しさとしての表現を作る能力を欠き、さらに噛む事・発音といった口の大きな機能が著しく障害されます。
さらに少しずつ歯を失う度に顎がズレて姿勢が変化し、その崩れた姿勢を補う筋肉が疲労して肩こりや腰痛などの症状が出たり、背骨が曲がって臓器を圧迫したり、様々な病気の元を作り出していることがあります。

またこのように歯があった時代とは一変した別の環境におかれる心の負担が、二次的に心理的障害といった複雑な状況を生み、家庭生活、職業的立場はもとより社会生活を営む上でその障害は大きく、恍惚の人や「人」としての生きがいを失うことにつながります。少々大げさな表現だと思われるかも知れませんが、残念ながらこの感情は歯を失った人にしか分かりません。

歯を一本づつ失っていく何とも言いようのない寂しさと一本でも残しておきたい心情。
食べられるものが制限されたり、ゆっくりとしかかめなかったりして人と一緒に食事ができない不満。喋りにくかったり、いつも異物感にさいなまれたり、さらに口元にいつも自信が持てないなどなど・・・。
丁度「子を持って始めて知る親のありがたさ」と同様に想像ではいかんとも理解できず、体験した人にしか分からないものです。
こうした状況を考えると「噛めないから取りあえず入れる」だけの簡単な入れ歯では人生の質から言ってあまりにも不足です。

噛む事・発音といった「機能」、外観・表情を作る能力などの「形態・美しさ」、全身的な辛い症状を回復し健康を維持することで幸福な人生を支える「支え」、さらに心の負担や歪みを取り除く「心理状態」などを回復する必要があると思います。
まさに障害に対するリハビリと言えるのです。

会話の回復 

通常の会話において相手に伝える情報量は、話す言葉がわずか7%、話すテンポや言葉の抑揚などが38%、そして顔の表情が実に55%と言うデータがあります。
非常に丁寧な言葉をかけられても素直にそう取れない時があったり、話言葉はぶっきらぼうでも何だか温かみを感じたりすることからもうなずける話です。これは顔の表情や話す抑揚などが多くの会話になっている証拠です。

ところが歯が一本もない人の顔は頬がこけ、口元がへっこみ、しわが寄り、口元が上下につぶれた非常に貧弱な顔立ちになってしまいます。昔の漫画にあった梅干ばあさんの顔立ちです。
このような状態の顔の表情を作る筋肉は本来の活動能力を失い、静的美しさとしての外観はもとより、動的美しさと表情を作る能力も低下してしまいます。
これでは上手な会話ができませんし、年寄り臭いマイナスのイメージになってしまいます。

歯があった時代に等しい表情をつくる筋肉の緊張を甦らせ、ペシャンコになった顔立ちを昔に戻し、美しい唇や頬の張りを回復する入れ歯でなくてはなりません。
また歯が抜けたまま喋ると音が漏れて相手に伝わりにくく、はっきりした音を作ることができませんね。
入れ歯の人工の歯の位置に問題があると、発音しづらかったり、入れ歯を入れると口の中が狭く喋り難かったり、また喋ると歯が当たってカチカチと変な音がしたりします。

歯を失ったと言うことは、それだけでなく、歯を支えていた骨と歯肉も失った訳ですので、単純に歯を入れるのではなくその失った部分も入れ歯の一部として回復する必要があります。
入れ歯治療はリハビリと申し上げる訳がここにあります。

心理面の回復 

入れ歯の治療は通常数ヶ月から半年位治療期間が必要になります。来院当初色々な不満を持っておられたのが、治療が進むにつれて入れ歯にも、毎日の食事、お体や人生にも自信が持てるようになって次第に明るくなって来られます。

最終の入れ歯ができあがる頃になると、女性ではお化粧をされるようになったり、明るいお洋服を着て来院されたりと、笑顔が多くなる経験を何度となくしました。男性では社会生活に積極的になり、大声で話せるようになったり、若い人と同じ物が食べられた、若返った、噛みしめられるようになって力が入るのでゴルフの飛距離が伸びたなどのお声が返って来ることがあります。

こうしたことができることもさることながら、「できる」と思える心理面の効果が大きいのです。
歯科医にとっても単に治療手順を踏んだ口の中だけの治療より大きなやりがいを感じ、歯医者冥利に尽きる時でもあります。

具合のよい入れ歯の条件

どうしてこの世には具合のよい入れ歯とそうでない入れ歯があるのでしょうか?何が違うのでしょう?
具合のよい入れ歯はしゃべったり食事をするときにガタガタせず安定がよいものです。
足に合わない靴を履くと靴ずれを起こすのと反対に、ガタつかない入れ歯はお口の中を傷つけることなく、すなわち痛くない入れ歯だということができます。

ガタつけばあちこち当たって痛いだけでなく、入れ歯を支える土手も痩せてさらにガタつく悪循環に陥ってしまうのです。こういう訳でだましだまし合わない入れ歯を使っている人は、一生に一度しかない親からもらった大切な土手(あごの骨)を食いつぶしていきます。
ガタつかないということは入れ歯がお口にピッタリあっているということです。

動かないものにピッタリ合わせることは比較的簡単なのですが、お口はしゃべる、噛む、飲み込むという具合にじっとしてくれません。その日によって食べるものや飲むものも違いますのでお口の動きも変わります。これではある時は具合がよくても別な時には調子が悪いことも出てきます。
どんな時でもピッタリさせることは口で言うほど簡単なことではありませんし、ちゃんとした治療には時間も手間もかかることになります。
皆さんの身の回りにインスタントや急ぎ仕事で手間暇かけたものよりいいものがあるでしょうか?
入れ歯も同じです。

では具合のよい入れ歯の必要条件を次にいくつか挙げてみましょう。
少し難しい話になりますので本文を飛ばし項目だけお読みいただいても結構です。
ご自分の入れ歯に当てはめてみてください。

具合のよい入れ歯の条件1

1.土手の形にピッタリ合って入れ歯がガタガタしないこと。
これは想像しただけでもお分かりいただけると思います。しかし現実には噛んだときに、入れ歯を介して押された歯肉(土手の肉)が変形します。さらに場所により歯肉の厚味が違うので押されて変形する量も場所によりまちまちになりますので形といっても一様でないのです。
少々難しい話になってしまいましたが、この一つをとっても一度だけの簡単な型取りではうまくいかないことがお分かりいただけたと思います。

2.入れ歯の上下の人工の歯の位置や形がしっかりできていること。
具合のよい入れ歯の条件はよく噛めて食事がおいしいことです。まな板が動くとよく切れないのと同様にガタつく入れ歯ではよく噛めません。
入れ歯のガタつきは前にご説明した土手とのピッタリ度合いや入れ歯の大きさ広さもさることながら、入れ歯の上下の人工の歯の位置や形が悪いと噛むたびに入れ歯がガタつき当って痛かったり、不安定なためよく噛めないことになります。
噛むたびに入れ歯が食べ物から逃げていったら噛めないでしょう?
さらに人工の歯の位置や形が悪いと噛み合わせがうまくないのでこれもよく噛めない理由になります。

3.入れ歯がお口を動かす筋肉と当たらない場所にあること。
筋肉の動く場所に入れ歯があるとその筋肉が動いたときに入れ歯が動かされてガタつく原因になります。お口を閉じ、じっと動かない状態の型取りでは具合のよい入れ歯にならないのがお分かりいただけたでしょうか。

ではどうころんでも筋肉に当たらないような非常に小さな入れ歯にすればよいのでしょうか。日常よくこういった入れ歯をたくさん拝見します。あっちが当たって痛い、こっちが痛いと削った結果なのか、最初から当たってこないように適当に小さくしておいたものなのかは分かりませんが、非常に小さい入れ歯です。目にする大半がそうだといってもよいでしょう。
しかし小さい入れ歯は邪魔にならない反面、土手と接する面積が少なく、噛む力を十分に支えることができません。
噛むと痛い入れ歯になったり、土手に入れ歯が食い込んで土手が痩せてしまいます。
雪の上を竹馬に乗って歩くことを想像してみてください。
竹馬では雪に食い込んでしまって、とても歩けたものではありません。
カンジキの方が歩きやすいですよね。

さらにこういう入れ歯は土手への吸い付きが悪いので安定せず、入れ歯と土手がこすれて痛むことがよくあります。吸い付く理屈はガラス板2枚をピッタリ合わせるとなかなか剥がせないあの原理です。この吸い付く力を利用するには入れ歯と土手がピッタリ合っていて、さらにお互いの接触面積が広いことです。

こうしたことから入れ歯は筋肉の動きに邪魔しない範囲で可能な限り大きく広くしなくては具合のよい入れ歯とはならないのです。入れ歯の型取りはお口がじっとした状態でなく、筋肉の動きを時間と手間をかけて写し取ってくる必要があります。

具合のよい入れ歯の条件2

4.歯や口元が若々しく綺麗なこと。
おばあちゃんの漫画で口元が引っ込んで張りがなく、シワシワになった漫画がありますが一見しただけで老けた印象を与えてしまいます。また前歯の見え方や長さ大きさ、丸みなどの形や色合い、さらに出っ張り具合などでも与える印象が違ってきます。
親からもらった歯は選ぶことができないのですが、せっかく入れ歯を新しくするなら沢山ある人工歯からあなたに一番ピッタリするものをお選びになられることをお勧めします。

5.肩こりや頭痛、首や腰の症状をつくるかみ合わせでないこと。
テレビや新聞、週刊誌などで取り上げられるようになって、最近やっと歯やかみ合わせと全身の関係が世間でも知られるようになってきましたので、関心がある方も多いと思いますが、かみ合わせの問題が偏頭痛や肩こり、腰痛などの不快な全身症状、顎の関節の病気の原因の一つとなっているのです。
これらの症状と入れ歯の噛み合わせの関連についての詳しい説明は別に譲るとして、ここでは簡単にお話しさせていただきます。

歯を一本ずつ失うたびに少しずつ残った歯やあごがズレ、大なり小なり噛み合わせが狂っていらっしゃる方が多いのが現状です。最初はほんの少しの狂いであったものが年月とともに大きな歪みとなったり、小さな狂いでも多数の歯を失うことで積み重なって大きな歪みになることは珍しくありません。
ここで言う歪みとは、噛み合わせからくるあごの歪みであったり、あごの歪みからくる頭の傾きや肩、さらにそれらを支える背骨や腰の歪みであったりします。

歪みがその人の許容範囲内に納まっているときは症状が出ないで済みますが、年々蓄積していくことや老化による許容範囲の減少を考えるとその先は分かりません。また症状はその人の弱いところや歪みのひどいところに出てきます。

入れ歯には噛み合わせは関係ないと思っておられる方が多いのですが、事実はまったくその正反対で入れ歯の人ほど歯を失うたびに噛み合わせを狂わせてきたのですから問題は深刻なのです。
「あごが若かった昔の位置からズレたり歪んだりしていないこと。」
これが具合のよい入れ歯の必須条件です。

「逆必ずしも真ならず」ですが先ほどお話した症状の有無をあごのズレの一つの指標にされるとよいでしょう。このズレがあるままで新しい入れ歯を作っても体の歪みや症状を楽にすることができないだけでなく、安定のよい、痛みのない、よく噛める、綺麗な入れ歯を作ることができません。

あごがズレるということは噛んだときの上と下のあご同士の位置関係が親からもらった本来の位置にない、即ち上下のあごがアッチムイテホイ状態であると考えてください。電車の線路が途中でズレているようなものです。こんな状態で上下それぞれの入れ歯が安定する位置に人工の歯を配置すると上下の人工歯同士がうまく当たらずよく噛めない入れ歯になってしまいます。ズレた線路のまま電車を走らせるようなものです。

今度は無理をして噛める位置に人工の歯を配置すると、入れ歯の安定が悪くなりガタついて痛い入れ歯になってしまいます。無理やり線路をつないだようなもので、電車が脱線してしまいます。
高下駄の中心に体重が乗っているときは下駄は安定しますが、体重が下駄の前や後ろに乗ると下駄がひっくり返るのと同じ原理です。噛む力は安定を狂わさない位置にかけなくてはならず、おのずと人工の歯を配置する位置も限定されるのです。

さらに硬いもの・柔らかいもの、大きいもの・小さいもの、右で噛んだり左で噛んだりといつも決まった状態でないのですから全てをこなすことは骨の中に植わってびくともしない歯と違って不安定な入れ歯にとって容易なことではありません。何十年もズレていたあごを時間をかけて少しずつ戻し、その状態で新しい入れ歯を作ると具合のよい入れ歯になります。この具合のよい入れ歯はよく噛め、痛くないのは勿論、よく吸い付いて安定がよく、口元も含めて見栄えのよい綺麗な入れ歯になります。
さらにズレや歪みが若い時の元の状態に戻った分、余計な筋肉が緊張をせずに済んだり、神経などの圧迫が軽減した結果、体の症状が軽くなるのです。人生快適なほうが楽しく楽だと思いませんか?

入れ歯と人生

ここまでで具合のいい入れ歯の代表的な条件を5つ挙げました。
さてあなたの入れ歯はいくつ合格しましたでしょうか。
入れ歯にもスリッパのように間に合わせの入れ歯もあれば、走っても足にピタリと吸い付く運動靴のような入れ歯まであります。人生、スリッパを履いて歩くより、足に合ったしっかりした靴を履いて歩く方が快適で、しかも長時間歩く事ができます。
何も難しいことではありません。スリッパから靴に履き替えればいいのです。

しかし多くの方がスリッパで我慢をしながら、人生を歩いています。なぜでしょう?
人生を楽しむことをあきらめ、自分の人生はこんなもの、たかが入れ歯とあきらめ、そんな物に時間とお金をかけてもしようがないと思っておられるのでしょうか。
そう思い込んだ時、ご自分で道を閉ざしてしまいます。
たかが入れ歯かも知れませんが、そのために生きる喜びを捨ててしまうのはあまりにももったいないと思います。
「入れ歯とはこんなもの!」「食べる楽しみもここまで!」「人生とはこんなもの!」とあきらめてはいませんか?入れ歯も考え様によっては捨てたものでもありませんよ。

早く始めた分だけ早く快適になるだけでなく、早く始めた分だけ残った一度きりのかけがいのない人生を長く快適に送ることができます。
今までの人生の十年とこれからの十年は違うように思えます。
貴重な時間ですから、先に延ばす理由があるのでしょうか。
このお体のおかげでここまで生きてこられたのです。
ご褒美にちょっとお体に手をかけてあげて、今後も快適で豊かな人生をお送りいただきたいと思います。

心と入れ歯

前に書きました5つの条件に合格すれば具合のいい入れ歯が自動的にできあがるとお考えになられると思います。確かに大半の症例では5つの条件だけでうまくいきます。全てがそうあれば私としても治療が楽なのですが、そう簡単でないのが入れ歯治療の難しいところです。
症例の難易度のばらつきはあるとしても5つの条件は形あるものです。しかし入れ歯の治療には形のないものが大きくかかわってきます。何が結果を分けてしまうのかここでお話ししましょう。

私の医院に遠路お越しになられる方が時折お見えになられます。歯科治療は通院回数がかかることが多く通院自体大変なご苦労だと思います。裏返せばご近所の歯医者さんでご満足になられなかった結果で、その分大きな問題を抱えておられるか、治療が難しい症例であることが多いのです。
難しさには、お口の中の状況によるものとその方の感受性や考え方によるものがあります。その中で最も難しいのは後者です。この形のない難しさとはどのようなものなのか私なりにお話ししてみます。

感受性の違い 

1.感受性の違い
十人十色と申しますが人により同じことに対しても感じ方は様々です。
さらに硬い骨の中に植わっている歯と違って、入れ歯は柔らかく痛みに弱いデリケートな粘膜の上に乗せるものです。そのため歯より負担に対する許容量が少ない上に、先ほどの感じ方の大きな個人差が加わって治療結果に対する満足度の大きな差がでてしまいます。

この感受性には粘膜などの形あるものの差よりも、後でお話しする性格などの目に見えない形のないものの違いが大きく関与しています。これらは自分でもなかなかコントロールできない部分で、第三者の私ではどうしようもなく治療が難しくなる可能性を秘めているのです。

2.ガンバリ過ぎのとき
家族のため、自分のためにがんばって、くいしばって一生懸命人生を生きてきたとします。
明るく笑っているときは食いしばりはしませんが、嫌なことをガンバッテするときは「歯を食いしばってガンガレ!」と言いますし、口を開けて重い物を持てないようにガンバる時は食いしばったり噛みしめています。以前より若さのなくなった顎や歯と歯ぐきにはそれが大きな負担になっています。
食事以外は休んでいたいあごの土手(粘膜)は休むまもなく、そうして悲鳴を上げてきます。
入れ歯も具合が悪くなります。

人生をアクセル全開で走って来ることができたのは、体がそれに耐えてきたおかげです。
当時より少し年齢を重ね体も少し変わってきた今でもまだアクセルを踏みしめていませんか?
今はすべてが昔のままではないのです。
くいしばって生きている人の歯や入れ歯が痛むのを歯科的側面だけで治療するには限界があります。歯や入れ歯がその人にぶつかってきて痛くなっているのでなく、その人が歯や入れ歯にぶつかっていっているからです。

歯をくいしばって生きる人生から、前向きに楽しく生きる人生に変わると治療は自然とうまく運びます。今まで人生を支えてくれた体に感謝をこめてちょっとアクセルを緩めてあげれば良いのですが・・・。

心がマイナスに働いた時 

3.心がマイナスに働いた時
昔から病は気からと言いますし、病気と言う字は気が病むと書きます。
病気になるには、なる理由があります。例えば風邪を引いたとします。西洋医学一辺倒の考え方ではそこにビールスがあったから、さらに体が弱っていたからだとなります。必ず形あるものが原因になるのです。これは人に説明するには都合がよく、他人の納得を得やすいものです。

しかし風邪を引いた人と同じ部屋にいて、たらふくビールスを吸い込んでも風邪のカの字も引かないときがあるかと思えば、風邪を引いた人と接触した覚えもなく非常に体調がよくてもいつの間にか引いてしまうことがあります。どうしてこんなに違うのでしょうか。今の医学では説明できません。

風邪を引く暇がないと元気で飛び回っている人が風邪を引いた話を聞いたことがないことからも、たとえ過労がきっかけでも病気になるときは気力の減退したときなのだという考え方があります。
気力は明るく元気、明朗活発など、自分や他人に対するプラス(ポジティブ)の感情で充実します。
反対に悩み、怒り、ねたみ、不安などのマイナス(ネガティブ)の感情で気力は衰えます。こうした気力はその人の性格やその時に使う感情に依存するのです。

性格や感情が病気と深くかかわっている考え方からすると病気を治したいと思えば症状を軽くする薬を飲んだり、体も精神も安静にして回復をただ待つのではなく、プラス(ポジティブ)の感情を持つことが大切なのです。その方が生活も人生も楽しいのではないでしょうか。

またマイナスの心は体を傷つけて病気になる方向に持っていくだけでなく、病気から引き返そうとする治療を妨害します。さらにマイナスの心では感謝がわいてきません。たとえそれが体にとってよい方向への変化であっても、マイナスの心では一方向からしか物を見ることができなくなっているために、変化すること自身が不満になることがあります。

また本来人間は欲張りな生き物ですから、一つよくなれば次はこれと言う具合に欲望にはきりがありません。きりがない上にマイナスの心はよくなった部分への感謝がなく、そこは置いておいて悪いところばかり気になったりするものです。
これでは治療はいつまでも終わりのないものになり、不満しか残らなくなってしまいます。どうがんばっても80点の実力しかない受験生が前回の試験で60点だったとします。その人が今回の試験で75点取れたことに満足せず、90点取れなかったことに不満を持ち続けることに似ています。これでは治療でよくはなっても満足した結果にならないことになります。

楽しく愉快に笑っているときは口は開いていますし、食いしばることはありません。しかし我慢したり、ガンバるときは口を閉じて食いしばります。マイナスの心も食いしばったり噛み締めたりする方向の感情です。
人にも休日があるように入れ歯の下の土手(肉)にも休養が必要なのですが、必要時以外もかみしめたり食いしばられたのでは土手はたまったものではありません。あちらが痛い、こちらが当たると悲鳴を上げてきます。せっかく治療で少しずつ良くなってきたあごも食いしばりの力で元に戻っていきます。

こんな状態でもマイナスの心はその原因を入れ歯に求めます。本当は自分が入れ歯にぶつかってきているのに、入れ歯が自分にぶつかってきている、入れ歯が自分に合わないと考えるのです。
誰しも自分は正しく思えるし、かわいいので不満の矛先は他に求めるものなのです。

しかしこの状態では歯科的にはどうしてあげようもありません。長期間食いしばった結果、硬い骨の中に植わった丈夫な歯ですら歯槽膿漏になって抜けてくるのに、柔らかい肉の上に乗った入れ歯でそれより丈夫なものができるわけがないのです。

こうした心は入れ歯だけでなく自分の身の回りに起きた不愉快な出来事は他人や他のものに矢印を向け、概してそこまで持っていったまたはそれを自分に引き込んだ自分があることを忘れてしまうものなのです。この身勝手さがマイナスの心の怖いところです。

人間は弱い生き物ですし、心も繊細なガラス細工です。さらにバイオリズムのように体調も感情も波がつきものですし、分かっていてもできない時や事情もあることでしょう。お釈迦様ではないのでいろいろあるのです。ですが心の状態によっては治療が難しかったり、それが原因で治療にならない、またはできないことがあることをご理解いただきたいと思います。

人より心理学や人の生き方に興味を持って取り組んでいるとは言っても私は歯科医で感情や性格的なことは専門外です。そこは「餅は餅屋」ですから専門家にお願いするしかありません。
どんなにいい薬でも体や本人に治す力と心がない時は効きません。薬や治療は体や本人が治すのにきっかけを与えたり治す力の後押しをするものだからです。
我々は症状を楽にする薬をお渡ししたり病気を治すお手伝いをすることはできても、病気を治すことができるのは患者さまご本人なのだということを忘れないでいただきたいと思います。

人は何を基準に幸せと考えるかで満足はまったく違ってきます。
先ほどの受験生が前回の試験より点数が15点上がったことに素直に喜びと感謝を持っていただければ人生も感情もそして治療もうまくいくのですが…。

治療の第一歩

さあこれから入れ歯を作るとなると何から始めるのでしょうか?
大抵の人は「入れ歯の型をとることです」とおっしゃるでしょう。それともちょっと歯科治療にお詳しい方は「まず検査からです」とお答えになるかもしれません。
私の第一歩は歯や入れ歯のお話は後回しにして、「私を知ってもらいたいし、この人はどんな人だろう」、「患者さんと仲良くしたいなー」と会話を始めることから始めます。

そんなこと治療に関係ないじゃないかと言われるかもしれませんが、実はお互いを良く知り、相互信頼がなくてはいい治療ができないと考えているからです。あまり知らない相手には、治療に素人である患者さん側からだけ見た必要最低限のことしか話してくれませんし、本当の声も聞かせてくれません。これでは最初からうまくいきっこないのです。
もちろんお会いした初日に仲良くなれるとは限りませんが、千里の道も一歩からです。こうして少しずつお互いに打ち解けていきながら、現在の入れ歯の具合の悪いことや、不満なこと、何をどう希望されているのか等々お話を進めていきます。

そしてその方の全身の姿勢やしぐさ、お顔の表情や喋り方、最後にお口の中を拝見し、詳しい検査をしていきます。

超特急の入れ歯が幸せを呼ぶ? 

今まで何年もこの状態だったのに、入れ歯を作るとなると善は急げなのでしょうか、「いつ出来上がるのか」と急に急ぎ出す人がいらっしゃいます。確かにこの世にはすぐ型をとってあっというまにできる入れ歯もありますし、世間の多くの方々がそのような簡単な入れ歯で日常生活を送っておられるようです。その人も今までそうしてきたのだから今度もそうだと決めつけておられるのでしょう。
本当にそんな超特急で入れ歯を作ってよいのでしょうか?

お口は噛む時だけでな喋る、食べる、飲み込む、息をするなど様々な動きをして、じっとしていません。
そんな時も入れ歯はお口から振り落とされることなく、しっかりと口について動かなければなりません。
それなのにじっと動かない状態の一度きりの入れ歯の型どりでピッタリ合った入れ歯ができる訳がないのです。
仮りの入れ歯を使ってお口の動きを仮りの入れ歯に幾度となく写し取り、時間をかけて少しずつ型を作り上げていく必要があります。

また別冊の咬合病のところで説明させて頂いたように一本の歯ですらかみ合わせを狂わし、あげくは骨格や姿勢にまで影響し色々な諸症状がでることがあるのです。
長い年月をかけて少しずつ歯を失うたびに歪みが積み重なってきて現在入れ歯のご厄介になっているのです。
その長い年月の間にアゴの骨や口元が痩せたり、かみ合わせはもとより、姿勢まで歪んでいることが多いのです。
その歪みは全身的な症状となっていることもあります。

このまま超特急で入れ歯の型をとっても長年の変化や歪みを何も変えられません。
総入れ歯に至ってはお口の中全ての建て替えなのですから、そんなにあせって作ったものがお口やお身体によいはずがないのです。また一度の型どりと設計であっという間に入れ歯を作ることは、まるで何の情報もなく白地のキャンバスに目をつぶって一気に絵を描きあげるようなものです。さらにその絵は自分が納得しても意味がなく、相手にその絵が気に入って貰えなければ何の意味もありません。

私たち歯科医は入れ歯をつくる専門家ですが、入れ歯を使う専門家は患者さんです。
作る人と使う人が違うのに、作る人だけの視点でこしらえてもいいものができる訳がないのです。
仮りの入れ歯を使いながら修正とお互いにに確認を積み重ねて、歪みを少しづつ元に戻しながら治療を進めていく必要があります。

そしてお口やかみ合わせは先に述べたように非常に繊細で、微調整を繰り返してその人にピッタリ合ったものにしていかなければならないのです。入れ歯は毎日使うものです。
そしてこれからの人生の良き伴侶となってもらうために少しは時間をかけてもいいのではないでしょうか。

入れ歯は成長する

■即時義歯
あっという間に入れ歯ができないことはお分かり頂けたと思いますが、今の入れ歯に不満があるから早く次の新しい入れ歯が欲しいとか、治療途中で噛めなくなっては困るなどのお気持ちは十分痛いほど分かります。
ご安心下さい。それにはしっかり対応できる方法があります。

この役目をするのが「即時義歯」と呼ばれ、緊急に作る入れ歯です。歯を抜いた後の傷を覆って守り、入れ歯がパカパカ落ちて食べたり話したりできなかったのを取り戻すのもこの入れ歯の役目の一つです。
例えて言うなら溺れていた入れ歯を助け上げる救急車です。この入れ歯のおかげでなんとかお困りに対して対応ができてきます。

■仮義歯
傷も治り土手が少し落ち着いてきた時点で「仮義歯」と呼ばれる次の入れ歯にステップアップします。
本物の入れ歯の前にズレた顎を治療したり、今までの入れ歯の問題点を解決していくのもこの入れ歯の仕事です。
この辺りまで治療が進んでくると、大半の患者さんが満足をしてしまい、中にはもうこれでいいと言われる方もいらっしゃいます。でも本当にこれでいいのでしょうか?
あっという間に作った入れ歯ではないにしても、簡単な型どりで、一度の設計で十分なのでしょうか。
あなたはともかく、あなたの歯やお口、そして身体は満足しているのでしょうか。
具合の悪かった昔の入れ歯とだけしか比較ができないのでお気持ちは分かりますが、長年蓄積してきた歪みはそう簡単には治らないし、歯を失う度に変化してきた口元や筋肉を取り戻す入れ歯でなくてはなりません。
先の例えで言えば、救急車はあくまで応急的な処置が目的で、後は病院でしっかりと治す必要があります。
救急車で済めば病院はいらないのです。

人間の成長に例えると即時義歯はまだ小学生、仮義歯は中学生です。まだまだ成長して立派になる余地があるのです。今まで歯をないがしろにしていらっしゃいませんでしたか?
入れ歯を入れるにあたって少しの時間を割いて頂きたいと思います。

■治療用義歯
顎や身体の歪みが大きい場合は、この入れ歯の次に三つ目の入れ歯を作りさらに修正を加えながら入れ歯もステップアップしていきます。これを「治療用義歯」と言い、ちょうど高校生ということになるでしょうか。

こうして少しずつあなたのお口や身体に馴染ませながら、微妙な修正を繰り返しながら時間をかけてピッタリと合った入れ歯の原型を作り上げていきます。入れ歯の具合は入れ歯をお口に入れてから、使ってから分かるものです。
数ヶ月以上は使って、微修正を繰り返しながら通院頂きたいと思います。
さあここまで来るとゴールも目前、お口や身体も調子がよく、よく噛めて入れ歯がガタガタすることがないのは勿論、口元や歯の色や位置などの外観や、喋ったり異物感も難なくこなせるようになってきます。

■最終義歯
こうなると後は簡単、何と言っても目の前に、絵に描いた餅ではなく患者さんと歯科医のお互いが納得できる「治療用義歯」という目指すゴールのお手本があるのですから、後は四つ目の最終的な入れ歯を作るだけです。

以上は一般論としての治療の流れですが、人それぞれお口もたどって来た人生も違うものです。
症例によっては一部の義歯を省略したり、逆に追加する場合もあります。こうして単純に「作る」のではなく時間と手間をかけて「作り上げていく」入れ歯は、あなたの食事はもちろん、健康や人生を支えてくれることと思います。さあ、今日は何を食べてみましょうか。