歯周病、原因と予防、生活の中の落とし穴

歯周病にならなければ歯を失うこともありません。歯という財産を守れるだけでなく、硬いものでも何でも噛める豊かな食生活も捨てる必要がありません。
治療に時間と費用をかける必要もありません。
実に成人の80%が罹患しており、歯を失う人の5人に4人が歯周病です。
今困っていない、大した症状がないと侮れない 、今日も多くの人々の健康と食生活を蝕んでいる病気なのです。これからの人生の質を考えると避けて通れない問題です。
<<目次>>
〇 20歳以上の8割、実は歯周病
〇 歯周病とは?
〇 噛むことと歯周病
〇 噛めない弊害
〇 歯周病の原因
・ プラークとは
・ 歯周病と歯のかみ合わせ
・ 歯周病と強い力
・ 強い力への対応策とは
・ 歯周病とストレスの関係
・ 歯周病と不十分な歯科治療
・ 歯周病と生活習慣の関係
・ その他の歯周病原因因子
〇 歯周病と闘う
〇 歯周病治療の基本
・ 歯周病治療 その1
・ 歯周病治療 その2
・ なかなか治らなかった歯周病が改善する歯周病薬物治療
・ 歯周病とメンテナンス
〇 歯周病の予防法とは
・ デンタルフロス(糸ようじ)が歯周病予防に有効
・ 歩いて歯周病予防
〇 歯周病と生活習慣病
・ 歯周病からの糖尿病発病
・ 歯の喪失と糖尿病
・ 歯周病と肥満
・ 歯周病と肺炎
・ 歯周病と早期低体重出産
・ 歯石を取ることと心疾患の関係
〇 筋力と糖尿病の関係
〇 睡眠と糖尿病
〇 中年期の糖尿病が認知機能低下に関連
〇 糖尿病専門医の「糖尿病がイヤなら歯を磨きなさい」が出版されました
20歳以上の8割、実は歯周病
実は成人の8割は歯周病にかかっています。国民病と言っても差し支えない割合です。 皆さんはご自身の歯が歯周病かどうかご存知ですか?
私の実感としては患者さんの多くは歯周病の名前は聞いたことがあるけれども、どういったものか、自分は歯周病なのかどうか知らない方が非常に多いように感じています。 さらに歯医者さんに通っていても、歯周病の検査を受けたことのない方も多数見受けられます。
歯を失う原因の一位が歯周病です。虫歯でも、歯の根の病気ではないのです。
歯周病は歯と歯ぐきの隙間の溝(歯周ポケット)から進行する感染症です。
歯の周りや、歯周ポケットにプラークと呼ばれる細菌の塊が付着して、歯を支える骨を溶かしてしまいます。
沈黙の病気とも言われ、知らず知らずのうちに進行します。自覚症状が出るころには手遅れになっていて、治療する手段がなく、結果として歯を失ってしまいます。 歯周病で歯を失った場所の骨はやせてしまい、次の治療が困難になるケースも多々あります。
そのために歯周病になっているかどうか知ること、歯周病になっていたら早期の治療が大切なのです。ご高齢の方の病気と思われがちですが、20歳以下でも軽度の歯周病になっている人の割合は6割にもなります。
まずは自分が歯周病なのかどうか調べてみましょう。
日本臨床歯周病学会が出している歯周病のセルフチェックがあります。 皆さんはいくつ当てはまりますか?
・朝起きたとき、口の中がネバネバする。
・ブラッシング時に出血する。
・口臭が気になる。
・歯肉がむずがゆい、痛い。
・歯肉が赤く腫れている。(健康的な歯肉はピンク色で引き締まっている)
・かたい物が噛みにくい。
・歯が長くなったような気がする。
・前歯が出っ歯になったり、歯と歯の間に隙間がでてきた。食物が挟まる。
○3つ当てはまる
歯周病の可能性があります。歯周病の検査を受けることをお勧めします。
○6つあてはまる
歯周病が進行している可能性があります。
○全てあてはまる
歯周病の症状がかなり進んでいます。 皆様はいくつ当てはまりましたか?疑問に思ったことや不安に思ったことがあれば気軽にご相談下さい。
歯周病とは?
歯を失う原因の最たるものである歯周病は、歯周病菌による細菌感染です。病原菌が出す毒素により歯茎の出血や腫れが起こり、進行すると膿が出て歯を支える骨が溶ける炎症性の疾患です。一定以上の骨を失うと支えを失った歯は最後には自然に抜けてきます。
以前は歯槽膿漏と呼ばれていましたが、歯周病は炎症が歯肉に限定される「歯肉炎」と骨などの周辺の組織まで進行した「歯周炎」に分類されます。
歯肉に異常がある人が70%、9500万人、40歳以上の人の歯を失う原因の約80%が歯周病ですが、初期症状が生活に支障をきたすほどでないため、治療を受けておられる方は罹患者のわずか1.2%しかいません。歯周病にかかっていることに気付いていない人や、末期にならないと「痛まない」ため気付いていても治療を受けていない人がいかに多いかわかります。
「痛みがないこと」は「健康である」ことと同じではないので注意が必要です。
病原菌は誰の口の中にも大なり小なり存在しますが、発症する方は病原菌の種類や量、免疫力などに違いがあります。どうして発症するのか、発症したらどうすればいいのかなどをこれからお話ししてまいります。
噛むことと歯周病
日本人の平均寿命は、2004年簡易生命表によると女性85.6歳、男性78.6歳、男女平均82歳、日本は世界一の長寿国です。しかし80歳で20本以上の自分の歯を持っている人はわずか15.3%、一人平均では8.2本の歯しか残っていません。
実態調査からみると、50歳から急に歯を失っていく姿がわかります。中高年の人の80%が歯周病にかかっており、さらに40歳以上人の歯を失う原因の約80%が歯周病であることを考えると、50歳以前に歯周病と正面から向き合うことが大切です。
人間は「慣性で生きている」ともいわれています。人生と身体の曲がり角ともいえるこの時期ですが、歯のことなど気にとめず無理や無茶がまかり通った50歳までの延長で生きていきがちです。
そうした生活習慣を変更することはなかなかできませんが、歯が不要なものとは誰も考えていません。自分の歯を大切にしなかったつけを支払う前に、もう一度歯のありがたさを再認識していただければと思います。
歯や口は、ものを食べるだけの器官でなく多くの働きがあります。
代表的な働きをみてみましょう。
かむことの重要性を唱えたフレッチャーイズムという考え方は、よくかむことによって食欲のコントロールを行って過食を防止し、疾病予防や長寿、健康促進、肥満防止に働くというものです。
運転中の眠気防止にガムをかむことが有効であることはよく知られていますが、かむ運動が、咀嚼に関係する筋肉の緊張と弛緩を伴うため、この交互の運動が血液をポンプのように脳からの静脈血を心臓に送ります。
さらに筋肉の張力が強まることが覚醒効果を生み、大脳皮質を刺激し、脳の働きを活発化し、思考力や記憶力、判断力、注意力などを高めて頭のめぐりがよくなります。
岩手医科大学の田中教授によると、長期にわたる歯の喪失が学習記憶能力を低下させ、脳細胞に変性を起こさせるとの報告もあります。姿勢を正しく保つことでもこの効果が得られるので、子供に姿勢をよくさせるのは単なるしつけだけでなく意味のあることなのです。
逆に猿のかめなくした側の脳の退化が認めれた実験もあり、人間でも認知症との関わりが推測されています。実際に多くの老人施設などからかむことと認知症や寝たきりなどの改善との相関があることが指摘されています。噛むことで唾液分泌を促し虫歯や歯周病の抑制にも働きます。
またスポーツ選手がガムをかみながらプレーすることがありますが、それはプレー中の緊張やストレスを緩和するためのものです。試合中にマウスピースを入れるのは歯やあごを守るだけでなく、その噛み合わせによって力の入り具合が変わって成績に反映するほど噛むということは彼らにとって重要な事柄なのです。
やけ食いを持ち出すまでもなく、このようにストレスの多い現代人にとって、噛むことはストレスブレイカーの働きをしています。
噛めない弊害
先ほどのお話とは逆に歯を失ったり噛めないことの問題もあります。インプラントを除いて自分の歯の代用品としての入れ歯などは自分の歯ほどは残念ながらかめないことが多いのです。
残った歯が21本より少なくなると、かむ力が大きく低下することがわかっています。 かめない=食べられない、ですから栄養摂取上にも問題ですし、要介護高齢者の日常生活における楽しみの第一位は「食事」で、食欲と言う死ぬまで残る本能を疎外する歯の喪失は無視できないものです。
またかめないことで唾液の分泌量が減って唾液の殺菌力や免疫力が少なくなり、口を含んだ消化器や呼吸器の病気にもかかりやすくなります。
そして歯を失うと、かむ力が残った歯だけに大きな負担をかけることから、残った歯まで悪くなることが非常に多くなり、噛む能力の障害、発音、審美の障害が起こることもあります。
歯や噛み合わせが姿勢制御や全身骨格の一部として身体を支える構造的器官としての役割も指摘されており、噛み合わせ不良と肩こりや頭痛、腰痛などの不定愁訴との関係も取りざたされています。
また、歯の喪失が日常生活上での自信の喪失につながることも多く、外食をふくめて外に出ることに消極的になったり、人前で喋ったり笑うことへの抵抗感を生むこともあり、精神的、社会的障害につながることがあります。
さらに噛むことがアンチエイジングと密接につながっていますので、老化を早めることにもなってしまいます。
そして噛めない、あまり噛まない、食生活になっていることは退化ともいえます。
筋肉は痩せて機能低下し、骨は細くもろくなり、はては免疫力の低下など身体の機能は衰えていきます。生物としての生命力が衰えていくのです。
人間は楽が大好きです。音楽など楽しいことはいいとしても、楽をして負担を減らすことの代償がいっぱいあることもご存知のことでしょう。
このように歯を失うことと噛めないことのデメリットは枚挙の暇がないほどありますが、現時点での問題は日常生活の上で、生活の質(QOL)や日常生活活動(ADL)が低下してしまうことです。
社会生活や文化的な活動を営む上で、歯は不可欠な存在です。
なんとか食べられればいいと簡単な話しでは済まないものなのです。
歯周病の原因
口の中は餌になる食べカスがあり適度な温度と湿度に保たれて繁殖に適した環境であるため、600種類以上の細菌が生息しています。一滴の唾液の中にも数億の細菌がいます。歯周病はその中に含まれる歯周病菌による細菌感染です。
重度の歯周病の人と健康な人の口の中に生息する細菌の種類や量が違っています。インフルエンザウィルスを空気中から失くすことができないように、無菌的な口の中を作ることはできません。
そのためいかに細菌の数を減らすか、細菌に打ち勝つ免疫力を高めるかが大切になります。
歯周病治療や予防のために歯石を取るため歯石が病気の原因だと思われるかもしれませんが、正しくは原因はプラーク(バイオフィルム)内部の細菌の塊です。
歯石はスポンジのように空洞があり表面が凸凹しているためにプラークなどが付着しやすくまた歯ブラシで内部に入り込んだプラークを除去できなくなることが問題なのです。プラークを減らすために歯石ごと取っているものです。
プラークとは
プラークとはお粥のようなどろっとした物質が体内の組織表面にへばりつき、病気の元になるものの総称です。医科領域ではコレステロールなどの脂肪からなるプラークが動脈内面について動脈硬化が起こりますが、歯科領域では食べかすなどを元に細菌が粘ついた物質を歯や歯茎に付着させるものをバイオフィルム(プラークや歯垢)と呼びます。
歯科のプラークは食べかすそのものでなく細菌が作り上げた自らを守る城壁のようなもので、内部は細菌の塊でプラーク1mg中に東京都の人口と同じ1千万以上の細菌がひしめき合っています。虫歯と歯周病はこのプラークが原因です。
そのため治療と予防にとってプラークをいかに取り除くか、いかにしてプラークがつかないようにするかが非常に大切なことがお分かりいただけると思います。結果的に細菌の数を劇的に減らすことができるからです。戦う相手が少ない方が有利だからです 。
プラークは不溶性グルカンというネバネバした糖で作られており水に溶けず歯や歯茎の表面にくっついて剥がれないため、うがいや唾液の除菌作用、消毒薬などの外敵からプラークが城壁となり内部の細菌は守られています。
完璧に歯磨きをしたとしても24時間でプラークは作られます。ですから毎日の食後にプラークが作られる前にまだ除去しやすい食べカスの段階で歯磨きで取り除いておくことが重要になってきます。仮にプラークができてしまったとしても丁寧に歯磨きをすれば取り除くことができます。
ここでご注意いただきたいのは、歯ブラシだけではうまく磨けてもプラークを58%しか取り除くことができないことです。歯ブラシの毛先が入り込めない歯と歯の間、歯と歯茎の間などの狭い場所にはデンタルフロスや歯間ブラシなどが必要です。
歯並びの悪い場所や利き手の関係や歯ブラシを当てづらい苦手な場所は特に意識をして磨くことをお勧めします。歯磨きなど清掃については「正しい歯磨きの仕方と予防法」をご参照ください。
歯磨き方法が自己流の方が多いため、磨き残しや苦手な場所があり、プラークのつき方に個人差がでてきます。虫歯や歯周病の発生個所は、この個人差が常態化してプラークが残った場所です。
そのためご自分の歯磨き癖を知っておけば、日頃の歯磨きで注意することができます。プラークを赤く染め出す薬液がありますので簡単にご自分の苦手な場所を知ることができます。
院内で磨き癖のチェックやあなたに適した磨き方などのご説明と共に行っておりますので、ご希望の方はお申し出ください。
お話ししたように歯を失う最大の原因であることや全身疾患にも影響することから、生活の質(QOL)と日常生活活動(ADL)の低下をもたらす歯周病ですが、これと闘うにはまず相手を知らなくてはなりません。
歯周病の原因には「食と生活習慣」、「全身的因子」と口の中の「局所的因子」の三つの因子があります。「食と生活習慣」と「全身的因子」はページの後半で述べます。
ここでは局所的因子を中心に簡単にお話してみたいと思います。
キーワードは「細菌」、「かみ合わせ」、「強い力」、「不十分な歯科治療」です。
歯周病と歯のかみ合わせ
歯並びが悪いことや、歯を抜いたままにして放置したり歯の治療途中で放っておいた場合、歯の移動が起きてしまうことがよくあります。
不適切な歯科治療でも起こることがあります。
こうした状況は本来の歯のあるべき位置からずれることを意味し、うまくかみ合わさらずに一部の歯に集中して力がかかります。
その時点では気付かないものの、実は歯の寿命に関わる一大事なのです。
簡単にいうと「かみ合わせが悪い」ということです。
得てしてこのような場合は肩こりや偏頭痛や後頭部の首のこりに悩まされていることが多くあります。問題解消するには歯にかかる負担・力の適正な配分が必要になり、対処法としては矯正治療、補テツ治療
、かみ合わせ治療などがあります。
最先端のインプラント治療、入れ歯や人工の歯を作る補テツ治療、歯を動かす矯正治療、歯周病の原因となり進行を助長するもの、全てに共通するのが『歯のかみ合わせ』です。
歯並びの問題はかみ合わせの問題でもあります。
かみ合わせに問題があれば、歯の寿命が短く、またどんな話題の治療であっても長持ちせずその努力が水疱に帰すことは想像に難くないでしょう。
歯周病と強い力
物事には何でも「適度」があり常に「限界」が存在することはご存知のことだと思います。
人の身体にもその能力や機能に限界があり、歯にも設計上の限界があります。
そしてその限界も老化により年々狭くなるのが通常です。
歯周病に関わるその限界とは、歯に負担をかける力の問題です。
第一の問題は、ブラキシズムと呼ばれる歯のくいしばりや歯ぎしりです。
これらの運動は、本来歯が休んでいるべき時間も歯に持続的な無意識の強いかむ力が加わる特徴があり、歯にとって強烈な負担力となり歯周病の大きな因子となっています。
この強い力は歯を支えている歯根膜という組織にかかります。皮膚を押すと血の巡りが悪くなって皮膚が白くなることと同様に、歯根膜の血の巡りが悪くなり組織の抵抗力が弱くなります。さらにそこに歯周病菌からの毒素が追い打ちをかけて組織の破壊が起こった結果が歯周病の発症です。
強い継続的な力が長期間に渡るため、歯の著しい磨耗や歯のへりが尖った形態をしている人はこれを疑っていいでしょう。歯のぐらつきもでることがあります。
ここで注意していただきたいのは、こうした現象が起きるのはブラキシズムの強く歯同士を接触させた運動だけでなく、歯同士を軽く接触させることでも起きることです。
机の上にじっと置いてある歯ならいざ知らず、人には常に身体や口の動きがあり歯を軽くでも接触しているとその振動が歯に伝わります。
こんな微振動でも歯は磨耗し、歯周病を引き起こす力を持っているのです。
またこうした行為を行っていなくても、噛み合わせの悪い場合や入れ歯の針金を引っ掛けてある歯にも同じようなことが起こることがあります。
第二の問題は、ブラキシズムによる歯への負担に加え、ブラキシズムの結果による歯の磨耗がさらに歯に負担となっていく問題です。
歯がすりへると上下の歯同士の接触面積が広くなります。コンクリートにチョークで絵を描いているとチョークの先が平らに太くすり減ってくることと同じ現象が起きるのです。
歯のかむ面積が広過ぎることは歯に大きな強い力がかかることになり、これがさらに歯周病を増悪させる因子となります。
この対処法は、かみ合わせ治療や補テツ治療などがあります。
強い力への対応策とは
このように歯ぎしり、食いしばり、長時間の上下歯同士の接触などの過大な力が歯を支える組織の負担となり歯周病を起こすことがありますが、これを回避するには2つの方法があります。
最も有効な方法は原因となっているこうした行為をやめることです。しかし大半が無意識で行っているためその行為を行っていること自体に気付いておらず、自分の意志でやめることもできない運動です。
これを根絶するのは容易ではありません。
気づいたらやめることを繰り返すことです。
無意識を有意識へと変換させる方法です。悪い習慣の修正ともいえます。
詳しくは「虫歯ではないのに歯が痛い」をご覧ください。
もう一つの方法はそうした行為からできるだけ歯を守ることです。マウスピースを装着することで直接歯同士が接触するのを防ぎ、歯にかかる力を弱くする方法です。
また歯を失っている場合は、噛む力を分散させる目的でインプラントを入れて歯にかかる力を弱くする方法があります。ブリッジや入れ歯では見た目の歯の本数は増えても噛む力を支える本数が変わらないためこの効果はありません。
歯周病とストレスの関係
精神的ストレスなどの心の負担が無意識の食いしばりや歯ぎしりを誘発することがわかっています。
「歯を食いしばって頑張れ!」といいますが、逆に脳がリラックスしている時は歯の接触はありません。笑っている時がいい例です。歯にも休む時間が必要なのです。ストレス管理に努めるなどご自分なりのストレス発散法を見つけられるといいと思います。
ここでお勧めしたいのが運動療法です。体を動かした後の爽快感など運動は精神面への効果が大きいことがわかっています。原因不明の歯や歯肉の痛み、また表面的な疾患は歯周病でも実はその陰で糸を引いているのが食いしばりや歯ぎしりだった、そんなことが日常臨床ではごく当たり前にあるのです。
歯周病と不十分な歯科治療
歯とぴったり合っていない銀歯などの人工の歯や、噛み合わせに問題のある人工の歯などは、いくらその材質が良くとも、またいくら美しくとも身体には不満足です。
そうした芳しくない入れ歯や人工の歯を使っている場合、歯とぴったり合っていないその隙間に微量であってもプラークが入り、虫歯や歯周病の原因となります。
銀歯が取れて歯を見たら、歯が真っ黒だった経験はありませんか?これが原因です。
また噛み合わせの問題はあごのスムーズな動きを邪魔したり、噛む力を十分に支えられないために残った歯に負担がかかることです。
今のお困りではないとしても、悪いことに気付いた時は手遅れになることが多いのも歯周病の怖いところです。
歯の寿命や将来の生活の質を考えると多少は時間と費用をかけてでも、多くの選択肢の中から最適の方法を選ぶことをお勧めします。
この対処法は、補テツ治療 、噛み合わせ治療などです。
歯周病と生活習慣の関係
歯周病は高血圧、高脂血症、動脈硬化、糖尿病、肥満などと同じく生活習慣病であるため、食と生活習慣が発病や進行に関わっています。平安時代の貴族、藤原道長も糖尿病を患ったといわれており、美食や体を動かさない生活が見て取れますが、運動不足と飽食の時代といわれて久しい現代の日本人の生活も歯周病を発症しやすい状況です。
この病因の背景により医療サイドだけの努力では治療効果が上がらないことが実証されており、日々の歯磨きなどによる歯周病菌数の減少と合わせて生活習慣の改善が必要になります。糖尿病治療に食事療法と運動療法が用いられることと同じです。
病気になる原因を作ってしまった結果が病気ですから、治療と予防は原因をなくすことから始めないといつまで経っても病気と縁を切ることができません。歯石さえ取っていればいいと他人任せでは済まないことがご理解いただけたでしょうか。
その他の歯周病原因因子
食習慣、喫煙、ストレス、生活習慣、糖尿病なども歯周病のリスク因子です。今まで述べた他の因子(原因)も含めて、抱えている因子の数が多いほど発症確率が上昇し、また治りにくいことがわかっています。
特に喫煙はリクスが高く、体が持っている抗酸化力をタバコ4本でゼロにするほど強力です。口の中の発癌リスクが3倍、歯の喪失も3倍、インプラントの喪失は7倍と大きな負の力を持っています。
口を閉じても上下の前歯の間に隙間が空いている人、上の前歯が前に飛び出している人、一部の鼻疾患がある人などは、口を閉じにくく口で呼吸をする人が多くいます。
口で息をすると口の中が乾燥してプラークが歯に付きやすいことと、唾液の蒸発によって歯肉が乾燥して炎症を起こしやすくなります。
唾液の重要な働きは別で述べますが、唾液の生体防御機能がなくなることによって歯周病だけでなくいろいろな障害につながります。
歯や口の中の形の異状によっても歯周病の因子になることがあります。
例えば、上の前歯の裏側にまれに縦にひびが入ったようなへこみがある場合や、奥歯に時折見かけるいぼのような突起がある場合です。
通常は見かけない異常な形態ですが、こうした形態は歯ブラシなどによる清掃の障害となり歯周病にかかりやすいのです。また歯肉に付着するひものようなものや、骨に付着した歯肉自体の幅が狭い場合などでも同様の問題となります。
歯周病と闘う
歯周病が他の生活習慣病とお互いに関連し合っていることがわかった現在では、歯石を取って歯ブラシをするだけでは、歯周病を完治できない時代に入っています。 こうした背景から最近は内科から糖尿病治療のために歯周病治療の依頼が増えてきています。
歯肉に何らかの異常がある人は人口の70%、その推定人口は9500万人にも達し、特に中高年者の80%が歯周病にかかっています。 国民全体の罹患率でみると、このように多くの人々がかかっている病気が他にあるでしょうか。
しかし治療を受けている人は114万人、異常がある人のたった1.2%しかいません。 歯周病にかかっていることに気付いていない人や、気付いていても治療を受けていない人がいかに多いかわかります。
初期ではほとんど自覚症状がないため、気付いた時はかなり病状が進んでいることが多く、 「痛みがないこと」は「健康である」ことと同じではないので注意が必要です。
歯周病が日本人の歯を失う原因の80%になっているため、一生自分の歯で噛んで質の高い食生活を送るためには無視できない病気なのです。
歯周病治療の基本
歯周病は細菌感染症であるため、歯周病治療の第一の基本は細菌の数を減らすことです。院内でのプラークなどの感染性物質の除去だけでなく、日頃の患者さんのお口の中の清掃の両輪が必要です。片方でも欠けると結果はよくなりません。また健康を維持するためには定期的なメンテナンスも重要です。
第二の基本は、歯軋りや食いしばり、噛み合わせの悪さなど歯に加わる異常な力の解消です。通常の食事で硬い物が好き程度で歯を失うことはありません。本来歯は休むべき食事以外の圧倒的に長い時間に軽くとも歯を接触させたり噛みしめたりすることが問題なのです。休むことのできない歯は歯周病になったり割れたりして最後には人生で二度と手に入らない大切な歯を失ってしまいます。
歯周病治療の詳細は「歯周病」をご覧ください。
歯周病治療 その1

歯周病予防と治療を考える上でのポイントは「生活習慣の改善」と「歯周病治療」です。
歯周病と闘うには、先ほど述べた患者さんの生活習慣を変える自助努力と歯科医院での歯周治療が車の両輪のようにうまく平行して進む必要があります。
どちらかが欠けたり力が弱ければ同じ所をぐるぐる回るようになってしまい、治癒というゴールにたどり着くことができません。二人三脚でじっくりと取り組んで参りましょう。
では、当院で実際の歯周治療はどのようにして行われるのか簡単にご紹介しましょう。
歯周病の病状は人により千差万別ですから、まず最初は闘う相手をつぶさに観察し、今後の治療方針を立てるために歯周検査を行います。
歯周検査とは現時点の病状を正確に知るために行うもので、レントゲン撮影、歯と歯肉の境目にできた歯周ポケットの深さや出血の有無、歯の揺れ具合などの検査を行います。かみ合わせの検査も合わせて行います。
次はその検査結果を元に現時点での問題点や治療方針のご説明をします。
この時点で緊急性のある問題に対しては応急処置やつらさを緩和する処置を行います。また歯の喪失や虫歯、かみ合わせなどの治療を要する歯周病以外の問題があれば、全体の治療計画を立てご説明します。
治療の主人公は患者さん本人ですし、先ほど述べた自助努力による治療へのご協力を仰ぐためにも、患者さんのご希望や治療見通しなど可能な限りコミュニケーションをとることを重視しています。ご説明内容にご了解いただければ、いよいよ治療に入ります。
歯周病が成立するにはプラークの存在が絶対条件であると述べましたが、歯肉炎や軽度の歯周炎では生活改善の自助努力と適切なお口の清掃によりほぼ正常な状態に回復することができます。
回復できないほどの破壊が進んでいない今が進行を食い止めるチャンスです。
こうしたことからお口の状態によっては、治療の第一歩はまずお口の清掃方法や習慣、タイミングなどのお話しや練習から始めます。
「磨いている」のと「磨けている」のは違うことで、ご本人の実感とのずれも多くあります。どうせ毎日することですから、上手な方が人生大きな得になるからです。歯肉の炎症改善と徹底的なお口の清掃との間には3~5日の時間的ずれがありますから、結果を急がず継続してください。
さらに歯の表面についた歯石を除去します。歯石の表面はざらついてプラークが残りやすく、歯ブラシなどによる清掃効果や効率を悪くするからです。
歯石の存在は歯肉の炎症状態をつくりやすいのです。こうした一連の治療が一段落すると再度歯周検査を行い、患者さんの自助努力と歯周治療が協力した結果を検査します。この検査で問題がなければ治療は終了となります。
歯周病治療 その2
二回目の検査で問題点がまだ残っていたることが判明した場合や、ある程度進行した歯周炎では、これに続いて歯周ポケット内のプラークや歯石の除去、歯の根の表面を平滑にする治療を行います。
歯周ポケットが一定以上深くなると歯ブラシの毛先が届かなかったり、ポケット内の狭い空間にある歯石が邪魔をして清掃できないからです。ポケット内のプラークなどの異物がなくなり、歯の根の表面が清潔になると、歯肉の炎症が収まってきます。これを治癒に結びつけようとする治療です。
この治療が一段落すると、再度歯周検査を行って治療効果を確認します。
検査結果がよければ治療を終了し、そうでないのならどこにどんな問題があるか把握して次の治療方針を決定するためです。
以上の治療と生活習慣の改善で多くの場合は治療が終了するか、安心できるレベルまで病状の軽減を図ることができてメインテナンスと呼ばれる経過観察へ移行できます。
しかし一部には病状の改善は見られるものの、まだいくつかの問題点が残ることもあります。また進行した歯周炎の場合には完治は期待できず、病気の進行を阻止することが目的となります。
そうした場合には、3DS等の抗生物質や抗真菌剤などの抗菌製剤を使う薬物療法や歯周外科手術、歯周病によって溶けた骨の再生手術などをご提案することがあります。
以前は一度失った骨は一生取り戻すことができず、治療によって現状を維持するのが精一杯でした。ところが医療の進歩により、GTR、エムドゲイン治療によって一部の骨を取り戻すことが近年できるようになりました。
この他にも歯周病を抑制したり機能の改善を目的としたインプラントや入れ歯、歯科矯正治療など多くの選択肢があります。
このような選択肢は初期的な治療が終わったお口の状態を拝見した後で、その方に適した方法をご提案させていただくことになります。
なかなか治らなかった歯周病が改善する
薬物療法
成人で歯を失った5人に4人が歯周病が原因です。現在歯の寿命を左右する最大の危険因子になっています。
しかしむし歯の激痛のような症状がなく、ほとんど無症状で進行するだけに手遅れになるケースが後を絶ちません。歯がぐらつく、噛むと痛い、歯肉が腫れている、歯ぐきから出血がするなどの症状が出ればすでに重症化してしまっていることが考えられます。
歯周病は歯と歯肉との境目で歯周病菌が繁殖することが原因です。歯周病菌の出す毒素やそれと闘おうとする体の免疫作用両方で歯肉が腫れ、骨が溶けてくる病気です。歯を支える骨が溶けることで歯がぐらついたり、支えが弱くなるので噛むと違和感や痛みが出てきます。
歯周病治療は歯石取りなどの初期治療後の検査でかんばしくない結果になった時に一般的には手術が行われていますが、痛い、日常生活が不便などの不満が多いのも事実です。そうした痛みなどの不快や不便がなく、原因菌を除菌して歯周病を改善するのが薬物療法です。
具体的には週に一回来院いただき歯と歯ぐきの間の徹底的な清掃と除菌を行います。ご自宅では毎日専用のマススピースの中に抗生物質のペーストを入れて就寝していただきます。ただこれだけの痛みや不快がない簡単なことで歯を失う原因の歯周病を改善できるのです。
先ほど成人で歯を失った5人に4人が歯周病と述べました。しかし逆に考えれば歯周病でなければ歯の寿命が延びて快適な食生活を送ることができるともいえます。
一度失った骨は二度と戻ることがありません。一日でも早く治療をお受けになられることをお勧めします。気になった時がその時です。今すぐお電話ください。
歯周病とメンテナンス
歯周病治療後のメインテナンスが治療後の経過を左右する大切な鍵です。ご自宅での適切な清掃や生活習慣の改善に加え、定期的な歯科医院におけるPMTCをお勧めします。
PMTCとは定期検診の検査や単なる歯石除去でなく、専用器械を用いた熟練したプロフェッショナルによる徹底的な歯のクリーニングとプラークや歯石が再付着しにくい環境作りです。病気の元になる物質を歯のすみずみまできれいさっぱり取り除くPMTC治療は、予防と維持に非常に有効な治療で、力強い味方となってくれます。
以前のように歯周病=抜歯という時代ではありません。年だからしようがない、家系的に歯が弱い、とあきらめるのは早くありませんか。
確かに加齢をとめることはできませんが、『老化』はある程度コントロールできるように最近なりつつあります。こうした老化にブレーキを踏もうと取り組んでいるのが、アンチエイジング、抗加齢医療と呼ばれているものです。20歳の歯は無理でも、年相応、できれば快適で若々しい口を取り戻すことがまったくの夢でもなくなりつつあります。歯周病はコントロールできる病気なのです。
ここまでお読み頂いて歯周病の怖さがお分かりいただけましたでしょうか?
次のチェックリストで、あなたの歯の健康度をチェックしてみましょう!
○歯がしみたり、痛むことがある
○舌で歯を触ってみると、ザラザラした感じがある
○歯ぐきが何となくかゆいことがある
○歯を磨くと、歯ぐきから血がでる
○歯ぐきを触ると、ブヨブヨしている
○歯が以前より長くなった気がする
○甘いものが大好き
○柔らかいものが好きで、硬い食べ物は苦手
○食事のとき、よくかまずにすぐ飲み込んでしまう
○片方の歯だけでかむ癖がある
《判定》 当てはまると思われる項目はいくつありますか?
一個以下(青信号): 今のところ問題はないようですが油断大敵。
これからも歯に気を配って予防に努めてください。
二~三個(黄信号): 歯の病気には早期発見・早期治療が大切です。
鏡で歯の状態を再チェックしてください。
異常が見つかったら早めに歯科医院へ。
四個以上(赤信号): すでに何らかの病気があると思われます。
痛みなどの異常を放っておくと大変なことに。
何はともかく予約のお電話を。
歯周病の原因菌が心臓から検出されて大きな話題を呼びました。
歯周炎を放置することは、身体を慢性的な隠れた感染・炎症状態に置くことになるのです。こんな状態が身体にいいはずがありません。
当然歯の寿命も短くなりますし、あなたの寿命をすり減らしているかも知れないのです。
今症状がないからといって安心は禁物ですから、早めの処置と食や生活習慣の見直しをお勧めします。
歯周病の予防法とは
毎日の適切な歯磨き・デンタルフロス・歯間ブラシと定期的なメンテナンスが予防の2本柱です。
デンタルフロス(糸ようじ)が歯周病予防に有効
欧米に遅れて最近ようやく日本でもデンタルフロス(糸ようじ)が市民権を得てきました。歯ブラシでは歯と歯の間が掃除できないために使用したり、歯と歯の間に詰まったものを取ることが本来の役割です。
ところが口の中の歯周病菌を減らす効果があることがニューヨーク大学歯学部から発表されて話題を呼んでいます。フロスの効果が虫歯だけでなく歯周病にも有効ですので、面倒に思うかもしれませんが今日からお使いになってみてはいかがでしょうか。
歩いて歯周病予防
一般的に1日1万歩を歩くことが健康のためによいとされていますが、最近「歩くほど下がる糖尿病のリスク」という論文のサマリーを読みました。要約すると日頃有酸素運動を行っていない肥満の人々の1日の歩数を調べたところ、1日平均3,500歩未満のグループの糖尿病リスクは高く、1日平均1万歩以上のグループは他のグループよりリスクが29%低くかったとの報告でした。
糖尿病と歯周病の相互関連から考えると、歯周病の予防や治療に有益な可能性があります。老化は足からともいいますから、損することはないと思います。
1万歩を毎日のノルマと思えば気持ちの負担になりますが、エスカレーターやエレベーターを使わず階段を上ってみる、駅まで季節の匂いと風景を眺めながら歩いてみるなど人それぞれのちょっとした工夫で、できる範囲だけ取り入れてみるのもいいかもしれません。
歯周病と生活習慣病
歯周病は生活の質(QOL)と日常生活活動(ADL)の低下をもたらす生活習慣病の一つです。 そして歯周病と糖尿病や心筋梗塞や狭心症などの心臓血管系疾患などの生活習慣病同志がお互いに関係があることが段々わかってきています。
糖尿病とは慢性的に血糖値が高くなり、それに伴って尿の中に糖がみられる病気です。 2002年の調査では糖尿病患者数740万人、その予備軍を合わせて1620万人にものぼります。日本人成人の5~6人に1人が糖尿病かその予備軍といわれ、さらに近年増加傾向にあります。
調査結果によると糖尿病にかかると男性で約10年、女性では10年以上寿命が短くなっています。 また糖尿病は人の身体の構造や機能に重要なアミノ酸や、酵素、遺伝子、脂質、炭水化物などを酸化するフリーラジカルを多量に発生させる疾患であり、様々な疾患を引き起こす原因となっていると考えられています。
このように糖尿病は老化を早め、寿命を短くする病気なのです。 近年の過食や飽食、運動不足、ストレスなどをはらむ現代生活では糖が余り、肥満や糖尿病を作り上げているのです。生活習慣病と呼ばれる理由がここにあります。
その糖尿病と歯周病は切っても切れない関係にあります。 糖尿病は歯周病のリスクであり歯周病は糖尿病のリスクになります。
歯周病からの糖尿病発病
米国健康栄養実態調査(NHANES)の調査結果では、中程度から重度の歯周病があれば糖尿病リスクが上昇する結果が出ており、日本人の観察研究では重度の歯周病と2型糖尿病の発症が関連する傾向がみられたています。
その研究では歯周病による歯の動揺(ぐらつき)があると2型糖尿病を発症するリスクが高い可能性があるといいます。
歯周病と糖尿病の相互関係が近年いわれていますが、どちらも生活習慣病です。生活のあり方により発症や発症後の経過が変わってきます。またどちらも一度発症してしまうと治療も簡単ではありません。発症させない日頃の注意と初期の内に治療をお受けになられることをお勧めします。
簡単な検査で病状がわかりますので、ご心配な方はご相談ください。
歯の喪失と糖尿病
歯周病と糖尿病がお互いに関連し合うだけでなく、2型糖尿病に罹ると歯を失うリクスが2倍になります。糖尿病罹患者は歯周病にかかっていることが多いため、その歯周病で歯を失った結果です。
また逆に口の中の衛生状態が糖尿病と関連するため、内科や糖尿病専門医からの歯周病治療と口の中の衛生管理の依頼が増えてきています。米国歯科医師会(ADA)も定期的な歯科検診と、家庭での適切なケアが糖尿病管理において重要だと強調しています。
歯周病と肥満
歯周病でも糖尿病と同じく、肥満や食べ過ぎとの関係が重視されています。肥満は肝臓から放出されるHDLコレステロール(善玉コレスレロール)を低下させ、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を上昇させることで高脂血症などの異常脂質血症を生み出し、さらに血栓を生じやすくさせます。
特に内臓脂肪の過剰な蓄積である内蔵脂肪型肥満は、糖尿病、高脂血症、高血圧などの生活習慣病の要因となり、動脈硬化疾患や虚血性心疾患の進展に中心的な基盤になると考えられています。
内臓脂肪型肥満ではアディポネクチンという脂肪細胞から分泌されるタンパク質が少なくなります。アディポネクチンには炎症を抑える働きがあり、また動脈硬化・糖尿病になりにくくする作用も持つています。
したがって肥満は炎症を起こしやすく、また動脈硬化も一種の炎症状態であるといわれています。すなわち、肥満や動脈硬化そのものが目立たず隠れた感染や炎症の状態であると考えられているのです。
一方、歯周炎も全身にとっては隠れた感染や炎症状態と捉えることができます。
事実、歯周炎患者では炎症値が上昇しており、歯周治療に伴って低下することも報告されています。
慢性化した歯周炎に侵された病巣には、他の臓器に類を見ないほど多量の細菌等がいます。中程度の歯周病にかかり人の28本の歯すべてに5~6ミリの深さの歯周ポケットがあった場合、身体が細菌の塊と接する表面積はおよそ72㎠、すなわち手のひらの大きさです。とんでもない大きさの感染面積になります。顔に手のひら大の潰瘍やただれた傷があったらあなたはどうしますか?大げさな表現でなく、全くの事実なのです。
その傷から細菌が身体にこうしてる今も入り続けているのです。
プラークから細菌が飛び出て、唾液や血液の中に入り込み、血流に乗って口から離れた別の臓器に運ばれてその場所で増殖し、病気や障害の原因になると考えられています。事実、歯周病原因菌が心臓の弁や動脈硬化を起こした血管から検出されたことが報告されています。
このように歯周病は口の中の問題だけにとどまらず全身的な病気につながる恐れがあるのですから、無症状だからといって決して侮ることはできないものなのです。
歯周病と肺炎
肺炎などの感染症は日本人の死因の第4位で、全体の8%を占めます。肺炎で死亡する人の92%が65歳以上の高齢者で、年々増加傾向にあります。
さらに肺炎のために長期間の入院を余儀なくされた高齢者は安静に寝ているため体を動かすことが少なく、身体のさまざまな場所が退化・萎縮して活動能力の低下をきたした結果、要介護状態になってしまう危険性が指摘されています。
実はこの肺炎は歯周病に関係があるのです。それはまず、口が食道と気管両方につながっているという構造にあります。通常は食べ物と空気をうまく交通整理できているのですが、高齢になると飲み込む能力や誤って気管に入った食物を咳によって排除する能力が劣ってくることがあり、これで肺炎を引き起こすことがあります。
誤って気管に入った食物や唾液に含まれる細菌の数が多ければ多いほど肺炎発症のリスクが増えます。歯周病は細菌による感染症ですから、細菌で満たされた口が呼吸器の入り口であることは無視できません。歯周病であることが肺炎のリスクなのです。
こうしたこともあって、病気で入院中の入院患者さんの口の中のケアを歯科衛生士が実施することで肺炎の発生を減少させている病院も出てきました。
自立生活者に比べて寝たきりの方の口の中は細菌検出率が高いことが知られており、また寝たきり度合が高いほど肺炎などによる発熱日数も増える傾向にあります。
口の中を清潔にし、さらに歯周病を軽減することによって肺炎の発症を減少させる可能性が指摘されているのも当然のことです。
口の中の衛生状態と日常生活活動(ADL)、認知機能、栄養状態が相関関係にあることがわかっています。つまり口の中を清潔に保つことがこうした事柄をいい状態に保つことができるのです。
口の中の清掃には薬剤によるうがいでは不十分で、歯ブラシなどによってプラークをしっかり取り除くことが大切です。高齢になると手先の動きが悪くなり根気もなくなるため、電動歯ブラシの利用もいいでしょう。
また歯ブラシが歯肉に当る刺激が口の中の知覚神経を刺激し、飲み込む運動や咳の反射運動を刺激して機能訓練としての一面も指摘されています。こうした口の中のケアには施設入所者の「顔色が目に見えて明るくなった」など、身体的また精神的な活動の維持や改善に有効であるともいわれています。
歯周病と早期低体重出産
その他に歯周病との関連が疑われているものに早期低体重出産があります。
早期低体重出産とは、分娩時期より早く妊娠22週以降37週未満で出産する早産と、2500g未満の低体重出産をいいます。
2500gの体重に成長するには平均34週程度が必要ですから、早産の場合は低体重を伴う傾向にあります。こうした早期低体重出産の原因は種々ありますが、歯周病が一部関与している疑いがあります。
調査によって多少のばらつきはあるものの、歯周病が早期低体重出産に対して5倍程度の危険率があるとの報告があり、また歯周治療を行った場合には早期低体重出産が減少した報告もあります。
このメカニズムや歯周病との因果関係などにおいてまだ十分に解明されていないこともあるのですが、特に妊婦さんは口の中の管理が非常に大切であることには間違いはありません。
治療するのは妊娠中期の5~7ヶ月がいいでしょう。また妊娠中は妊娠による女性ホルモンの変化やつわり、生活習慣の変化に伴って口の中の環境が悪化して虫歯や歯周病が発症しやすくなる時期でもあります。
自分自身だけでなく生まれてくる赤ちゃんのためにも、丁寧なお口の中の清掃に取り組まれるといいでしょう。
歯石を取ることと心疾患の関係
歯周病予防や治療に歯石を取ることは重要ですが、歯石の問題は歯周病だけに留まらないことが最近明らかになってきました。歯周病による炎症や細菌感染が動脈硬化と関連するとの見方もあるため、循環器疾患との関連が疑われています。歯石を取ると循環器疾患が減少し心筋梗塞も減少する傾向にあり、歯石を取る回数が多いとこの傾向が強く出ることが背景です。
今現在では確定した話ではないようですが、歯石の悪影響は想像以上に健康被害を大きくする可能性があり、小さく見てもお口の中の被害を拡大することは紛れもない事実です。
歯科検診は早期発見、早期治療が目的ではありますが、その都度定期的に歯石をお取りになられることが予想外の好結果につながるかもしれません。
筋力と糖尿病の関係
中年日本人男性は加齢による筋力低下で2型糖尿病になりやすくなり、太り過ぎるとこの傾向が強くなることが国立健康・栄養研究所(東京都)より発表されました。
肥満気味の方は痩せるだけでなく運動が必要で、その結果歯周病にも効果があると考えられます。運動は加齢による老化や病気の予防にも効果があります。
有酸素運動を勧める専門家もいて運動と聞けば尻込みしたくなる方もいらっしゃるかもしれませんが、最初からハードルを高く設定せず軽めの運動やウォーキングを入り口にするのもいいかもしれません。
睡眠と糖尿病
■毎日何時間寝ていますか?
食生活が不健全な人、運動量が少ない人は2型糖尿病を発症しやすくなることは一般的に知られていますが、睡眠時間が糖尿病に関係していることをご存知でしょうか。
平均より睡眠時間が2時間以上長い、また睡眠時間が6時間以下の方は2型糖尿病を発症しやすくなります。長すぎる睡眠は睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの睡眠障害、抑うつ、何らかの健康障害が隠れている可能性があると考えられています。
■休日はゆっくり寝ていたい人はご注意ください
仕事がある日は早起きして休日は遅くまで寝る人が85%という統計があります。普段より長い睡眠を取ることで日頃の疲れがさぞかし取れただろうと思えるのですが、実際はあまり体の疲れが取れていないことが研究からわかっています。
平日と休日で睡眠時間の差が大きい人では、コレステロール値や空腹時のインスリン値が悪く、インスリン抵抗性が高く、ウエスト周囲長が大きく、BMIが高い傾向があり糖尿病の危険性が増します。
また日常的な睡眠習慣の乱れは体内時計のずれを生じ、糖尿病や心疾患を起こしやすくなる可能性があります。
中年期の糖尿病が認知機能低下に関連
中年期の糖尿病や予備軍であることがその後20年間に認知機能が低下する可能性がありことが発表されました。60歳の糖尿病罹患者の認知機能は健康な65歳と同等で、記憶力と思考力が19%低下する結果になっています。
全ての糖尿病罹患者の認知機能が大きく低下する訳ではありませんが、糖尿病は色々なリスクを抱える病気であり、関連する歯周病も軽視できないものであるようです。近年糖尿病治療の一環として歯周病治療を勧める医師が増えてきている背景です。
糖尿病専門医の「糖尿病がイヤなら歯を磨きなさい」が出版されました

本のご紹介:「糖尿病がイヤなら歯を磨きなさい」
糖尿病専門医 西田亙(写真中央) 幻冬舎
糖尿病と歯周病の関係について糖尿病専門医が医療現場で遭遇した体験を交えて一般の方向けにわかりやすくお口の環境を良くすることで、糖尿病の改善も期待できることを書いてあります。
例えば、インスリン注射の治療をしていた方の治療費・お薬代が、毎月2万5千円~だったのが、歯周病治療を行って毎月500円少々に変わり、糖尿病専門医としてやらなければならないのは、歯医者に患者さんを紹介することだったと書かれています。
その他にも私たちが知らなかったことを盛りだくさんに書かれています。
自分自身の為に、子供たちの為にも一読を強くおすすめします。
高岡歯科医院 歯科衛生士 石田恵子